コロナ禍やChatGPTも想像できなかった。独身も既婚も関係なく人と付き合った方がいい

前回、「30歳になると潮が引いたように男性たちから声をかけられなくなり、寂しい思いをすると言われるが、実際に30代半ばになってみたら別にそんなことはなかった」と書いた。この手の体験って、私の場合は枚挙に暇がないので、やっぱり自分で実際に体験してみないとわからないものだなと思う。

他にはたとえば、「30代になると、子持ちは子持ち、独身は独身でつるむようになる。学生時代の友人とは共通の話題がなくなる」と言われるが、私の場合はこれもピンと来ない。確かに社会人になってから疎遠になってしまった友人もいるけれど、代わりに新しく広がった交友関係もある。具体的に言うと、私の趣味は二次創作なので、「我々の推しカプ最高」と思えば年齢も属性も、果ては国境も超えられる。北海道から九州、台湾や韓国まで、年齢は20代の学生からアラフィフまで、属性はバリキャリの独身、ワーママ、シングルマザー、専業主婦と、今私が付き合っている友人やフォロワーは住んでいる場所も社会的なステータスもバラバラだ。でもみんな仲良しだし、楽しい。子持ちは子持ち、独身は独身同士でしかつるまない……とは限らない。本当に、人それぞれだ。

さて、そんな今回は小川さやかさんの『チョンキンマンションのボスは知っている アングラ経済の人類学』の話をしようと思う。小川さんの著書は、以前の連載「結婚やキャリアについて『考えていません!』と著名な女性写真家が答えた理由」でも取り上げている。

「誰も信用できないから信用できる」

本書は、文化人類学者の小川さんが、香港のチョンキンマンションでボスを名乗る男・タンザニア人のカラマ氏と、その周辺の人物について描いたエッセイである。香港を象徴する巨大な雑居ビルであるチョンキンマンションには、難民や不法滞在者、中古車ブローカーや売春婦など、アングラな人々が集っている。誰も信用できないようなコミュニティでどう相手を信用するのか、どのような相互扶助の仕組みがあるのか。滞在しながら、小川さんはそのコミュニティの内部に迫っていくのだ。

本を読んでいくと驚くのが、「誰も信用しないから信用できる」というような、雑然としたシステムである。チョンキンマンションで信用するのは「人」ではなく、「状態」だ。たとえば同じ人間でも、お金に余裕があるときは信用できるし、ちょっと困っていそうなときは危ないかもしれない。常に信用できる善人も、常に信用できない悪人も、そこにはいないのである。貸した金は、状態が良くなれば返ってくるかもしれないし、良くならなければ返ってこないかもしれない。誰もが置かれた状況によって豹変する可能性を内包しているため、他者に対して「彼は【今は】いいやつだ」という評価しかしない。日本の文化にどっぷり浸かっている身としてはなかなか理解しづらい感覚だが、小川さんはそんな彼らの暮らしに「ゆとりがある」という感想を抱くのだ。