備えた上で「もしかしたら」の可能性は閉ざさない

平井と菅沼は、最終的に婚活のことや不倫のことを互いに打ち明ける。そして、子供がほしいとどこかで思っている平井に対して、菅沼は「諦めないことが正解じゃないように、たぶん、諦めることも正解じゃないよ」と言う。この考え方は、現代においてなかなか大切であるような気がする。

もちろん、経済的・心理的な備えは必要だ。35歳を過ぎて独身の男女は「自分は生涯子供を持たない」「結婚も生涯しない」という前提で人生を設計したほうがいいことは間違いない。だけど備えた上で、頭の中でほわわんと「もしかしたら」と思うことまで止めなくてもいいんじゃないか、と『がらんどう』を読んで確かに思った。

備えないで無策のままでいることと、備えた上で可能性を閉ざさないでおくのは違う。30代半ばで「いい人がいたら結婚したい」と言うとだいたい前者だと思われて怒られるが、『がらんどう』は後者の生き方をするほうの人に、ちょっとだけ希望を持たせてくれる。

Text/チェコ好き(和田真里奈)