一つになった三人に圧倒される

鍋の蒸気で生暖かくなった部屋は、どんどん緊張感を失っていく。みんなが思い思いの姿勢でくつろぎながら、だらだらゲームをやる姿は一見とても穏やかなものだけど、少しずつ、臭うぞ…ツインテちゃんの異常な甘え上手さ、ストパー君の能動的すぎない楽しみ方、そして五太郎さんの体から溢れる余裕。こいつら‥既セクだ!!!

はっきりとした証拠が突きつけられたわけではないのに、肌で感じる既セク感。食べ終わった鍋の中で油が少しずつ凝固していくみたいに、三人の気配は一つになる。それは物理的なものではない。四人で遊んでいるはずなのにいつの間にか、私はこの「家」っていう一つの生命体を相手にしているようだった。だからって嫌な気持ちになったりはしない。ただ、あまり見たことがない「一つになった三人」に圧倒されてしまう。そこら中に置かれているゲーセン育ちのぬいぐるみ達の瞳が、私を監視するみたいに光る。五太郎さんが私の頭を撫でるたび、私が五太郎さんに「すごい」と言うたび、好奇心が肌に刺さる。既セクが、既セクを、見守っている!!!だけど五太郎さんは、明確な一手を指してきたりはしなくって、私はそういうだらけきった部屋の温度に安心した。同時に、いつまで経っても「そろそろお開きにする?」と言い出されない状況に恐怖も感じる。私、このままここに溶け合えちゃうんじゃない?いつの間にか五人目になれちゃうんじゃない?それは面白そうで、今までにない体験で、でも。

好奇心の歩みを止めるのは、いつでも取り越し苦労の恐怖だ。私の脳内には「最悪の未来」のシミュレーションが広がっていく。もし、いつか私がめちゃくちゃ売れたら。その時「ルームシェア5P生活」なんて暴露記事が出たら。今思い出すと、なんて馬鹿な、無意味な想像をしてたんだろうって笑っちゃうけど、あの時は本当に一生懸命それを想像して、考えた。そして私が出した答えは「その記事はダメ」勇気を出して、もっと色んな人と、色んな経験をしてみたいって思っていたのは本当なのに、どうしても私はあと一歩が踏み出せない。「勇気がない」の勇気ってどういう勇気か。それは、他人を信じる勇気。だから私は友達が増えない。

始発が出てからしばらく経った。私は重い体に喝を入れて「そろそろ帰ります」と言った。誰も引き止めない。「また来てね」って笑う三人は本心からそう言ってくれていたと思うし、実際私もまた来たいと思ったけれど、その「また」は結局来なかった。

駅まで歩く数十分はとても寒くて、朝日は嫌に綺麗だった。こうやって、フッ軽ぶって遊んでも、結局私は変わらない。私は臆病で、自分が大事で、来るかもわからない未来の為にしか今日を過ごせないのだと思うと、つまらない人生だと涙が出そうになる。でも、私には夢があって、何よりそれが大切だから仕方ないんだと、朝日が眩しいふりをしてぎゅっと目を瞑った。ちなみに五太郎さんたちは数年後、みんなで地方に移住したらしい。

TEXT/長井短