ルームシェアの宅飲みに誘われた私は「家」という生命体を相手にしていた/長井短

宅飲みの誘いが舞い込んだ

フットワーク軽い人に憧れて、誘われた会にはできるだけ行こうって、それがどれだけ知らない人たちの場でも、とりあえず行ってみようって思っていたのは、自称モデル兼俳優の生活に慣れてきた頃だった。毎日結構楽しいけれど、どれだけ満たされても満ちるってことはない。好奇心+勇気=現在地って気がしてたから、私はその勇気の値を高めてみようと自分のテンションを一段上げる。今はもう全然覚えていない人とも飲んで喋って、楽しいのか楽しくないのかも良くわかんないけどなんか忙しい感じするしいいかな〜なんて過ごしていた私の元に、宅飲みの誘いが舞い込んだのは寒い寒い季節で、声をかけてくれたのが五太郎さん。

五太郎さんとは、共通の知人を介した飲み会で知り合った。「短ちゃんと、気が合いそうな人がいるよ」と言われて向かったレストランにいたのが五太郎さんだったのだ。彼は芸能と全然関係ない仕事をしていて、でもすごく綺麗な顔をしていた。なのに、それを凌駕する雰囲気の暗さ。口を開くとびっくりするくらい早口で、半分くらい何を言っているかわからなかった。圧倒的陰キャ。イズ、私と気の合いそうな人。まぁ‥はい。確かにそうですよ…元気すぎる人を紹介されても困ってしまうし‥でもそうか〜私って、やっぱそうか〜!!なんてめちゃくちゃ失礼なことを思ってしまったけれど、実際話してみると確かに気は合った。ゲームが好きで、漫画が好きで、しかも五太郎さんはガチモンの人だったので、私がふわ〜っとやってるゲームや流し読みしてる漫画への豆知識が止まらなかった。きちんと耳を傾ければ、早口なだけで話はとても面白いし、楽しいんだけどもう、一刻も早く帰宅してあのゲームをやりたいですって気持ちになる。それってめちゃくちゃプレゼン上手ってことだ。え〜五太郎さん楽しい〜普通に遊びたい〜と思っていたら、誘ってくれたのだ。宅飲みに。

「ゲームしよう」っていう話だから、まぁ宅飲みになるのは必然で、何もおかしいことはない。だけどちょっと、やっぱドキリとするっていうか、これ友達として行くっていう認識であってますよね?って一人もやもやしていると、見透かしたみたいにメールが届く。

「俺ルームシェアしてるから、同居人も一緒でいい?四人で鍋しよう」

あ〜!わかりやすい!!助かりますその情報は!これで私は安心して、テレビゲームをやりに行ける。絶対見せられない下着をつけて、私は初めて、そこまで仲良くない人の家へ向かった。

そのリラックスは不思議な出力をされる

広い家の狭いリビングでコタツを囲む。五太郎さん、私、ツインテちゃん、ストパー君。もう一人住んでいる女の子は朝方帰ってくるらしい。この場に別の女の子もいることが、私をさらに安心させた。鍋は美味しいしお酒も進むし、しかもありとあらゆるゲームを出来る。五太郎さんの仲間なだけあって、同居人の二人もめちゃくちゃゲームがうまかった。五太郎さんは自分の陣地での飲み会だからか、以前飲んだ時よりもだいぶリラックスしているようで、そのリラックスは、不思議な出力のされ方をする。頭を、撫でてくるのだ。元来背が高く、そういう可愛がり方をされてこなかった私は、つむじに手のひらが置かれるたびに宇宙猫で時間が止まる。照れた方が‥いいのか?それとも嫌がった方がいいのか?例えば頭を撫ででくる理由が「いっぱい食べられてえらいね」とかだったらもちろんドン引きなんだけど、彼が私の頭を撫でるのは「うまくプレイできた時」で、私よりも圧倒的にゲームが上手い五太郎さんに、そういう風に褒められるのはなんとなく、理由としては間違っていないっていうか、この人には私を誉める権利があるなっていう謎の承認が、彼に対してはあった。だから、拒否するにできないっていうか、あ、ありがとうございますおかげで上手くなりましたっていう間。