自分で自分を満たすとはどういうことか

本を読んで解説まで辿り着くと誰もが驚くことだろうが、実は著者のイーユン・リーもまた、息子を自死で亡くしているらしい。しかしその体験が『もう行かなくては』の執筆の動機になったのではなく、『もう行かなくては』の執筆を進めている途中で、息子が自死を選んだのだという。そのため一時は執筆を中断したらしいが、中断を経てなお作品を完成させるとは、相当な覚悟と意志だ。

「後悔がないとは言えないわ。後悔はあるけれど、後悔は雑草みたいなもの。成長してはびこる前に除草しないとね。意志の力はいちばん強力な除草剤よ。そして私には意志の力があるの(p380)」。

こう書くリリアは、小説を読む限り、決して文章の通りの強い人間ではない。自分に、残った子供たちに、あるいはローランドに言い聞かせるように、あえて皮肉っぽい言い方をしたり強い言葉を使ったりする。でもだからこそ読者はリリアに惹かれ、その言葉に打たれるのだと思う(まあだからこそ、リリアに共感できない、リリアが嫌いだという人もいるだろうが)。

私は一気に読んでしまったが、かなり読み応えのある小説なので、冬から春にかけてじっくり読むくらいでもいいのかもしれない。自分で自分を満たすとはどういうことなのか。きっとリリアが、一つの例を示してくれる。

Text/チェコ好き(和田真里奈)