このまま独身でも大丈夫?と思ったら、60歳以上の独身女性エッセイを読んでみよう

by sk

不安に感じることの正体は「わからない」こと――というのは、本当にそうだ。たとえば、20代の頃は私もそれなりに結婚願望があったのだけど、それは「そこまで高収入でも仕事一筋でもない女が生涯独身」というロールモデルがあまりにも少なすぎて(というかほぼゼロで)、将来の見通しがまったく立たなかったせいだな……と振り返ると思う。

現在は、「(人生何が起きるかわからないとはいえ)たぶんこの方向性でこのスキルを磨けば、高収入は無理でも食いっぱぐれはしないだろう」と将来への見通しをなんとなく立てることができてきたため、たぶんこのままずっと独身だと思うけど、不安感や孤独感はそこまでない。「このまま一人でもなんとかやれそうだ」と思えた瞬間、私の場合は、結婚願望も消えてしまったわけだ。

ロールモデルは相変わらずいないけど、それなら私自身が「そこまで高収入でも仕事一筋でもない女が生涯独身」の一例になればいいかな、と考えてすらいる。この連載を通して、いろんな女性たちに「ずっと独身でも、あるいは離婚してそのあとに独身になっても、お金がそんなになくても、人生けっこう楽しくやれそうだ」と思ってもらえたら本望だ。

さて、ロールモデルがいないとはいえ、私自身の変化かあるいは世の中の変化か、数年前に比べると、様々な独身女性たちが最近はけっこう視界に入るようになってきた。たとえば、『65歳から心ゆたかに暮らすために大切なこと』の著者である、ショコラさん。ショコラさんは離婚して独身になった女性だが、65歳になった今でも年金を受け取りながら、自分らしい暮らしと生き方を楽しんでいる。

私も70歳まで、いや頭と体が動く限り働きたいと考えているが、それは年金の受け取りを遅らせるなどお金のためだけではなくて、そのほうが毎日にメリハリがつくし人とコミュニケーションもとれて楽しかろうと思うからだ。年金+αの収入で、独身一人暮らしでも満足感のある暮らしをしている高齢の方を見ると、私は安心する。

80歳のル=グウィンが書いたエッセイ

お金のこともそうだけど、60歳とか70歳とか80歳とか、それくらいの女性がどんな考え方を持って暮らしているのかをもっと知りたい、よりくっきりと将来の見通しを立てたい! という欲求が、最近の私は高まっている。

そんなわけで今回、ショコラさんの本以外に紹介したいのは、〈ゲド戦記〉シリーズで知られるアーシュラ・K ・ル=グウィンの『暇なんかないわ 大切なことを考えるのに忙しくて』だ。この本は2018年に没したル=グウィンが80歳を過ぎて書いたエッセイが中心で、ル=グウィン自身は独身ではなかったが、60歳を過ぎると既婚の人が書く文章も独身の人が書く文章もそんなに差がなくなってくる、というのが私から見た印象である。『暇なんかないわ 大切なことを考えるのに忙しくて』も、子供やパートナーのことよりは、ル=グウィンの愛猫だったパードについて書かれているページのほうが多い。

面白いのは、80歳を過ぎてエッセイを書いているル=グウィンが、「年齢は気持ちが決める」というポジティブな言葉ではなく、「弱虫に年寄りは務まらない」という常套句のほうを気に入っているらしいこと。もちろん何歳になっても新しいことにチャレンジしたり、今まで触れてこなかったものを勉強したりするのを楽しんでいいと思うが、それは「いつまでも若くありたい」という気持ちのもとでやるべきではないのだろう。30代になった自分を、40代になった自分を、80代になった自分を受け入れる。新しいことにチャレンジはしても、身体的にあまりにも無理がかかることはしない。シミやシワを無理になくそうとしない。「弱虫に年寄りは務まらない」とは、そういうことではないかと私は思う。

年齢を重ねても、丸くならないでいい!

さらに言うと、なんとなく「年齢を重ねるにつれ丸くならなければならないのでは」などと私は思い込んでいたのだが、ル=グウィンはエッセイの中で、けっこう強烈な皮肉を言い、ハーバード大学を批判し、他の作家に嫉妬している。

私は40代になっても50代になっても、もっと言えば死ぬまでずっと皮肉っぽい人間でいたいので、このル=グウィンの姿には大いに勇気づけられた。同時に、80歳近くなっても、ル=グウィンくらいのレベルの作家になっても、嫉妬と無縁ではいられないんだな……と、諦めがついた(ル=グウィンはヘミングウェイやジェイムズ・ジョイスが評価されていることが気に入らないらしい)。ル=グウィンですら嫉妬するのだから、私ごときが他の人に嫉妬するのはもはやしょうがないと言える。

不安に感じることの正体は、「わからない」こと。このまま独身でも大丈夫なのかなと思ったら独身の人の話を聞けばいいし、60代以上の女性の本を読めばいい。確かに数はそんなに多くないけれど、これからそういう本はもっと増えるだろう。このコラムを読んだ人が『暇なんかないわ 大切なことを考えるのに忙しくて』を手に取って、不安なことが1つでも消えればいいなと思う。

Text/チェコ好き(和田真里奈)