「女の話題」の輪の中に入れない
もうずいぶん前の話ではあるが、私は一時期、人前で料理の話をするのが怖くなってしまったことがあった。その原因は、他の部署の男性社員から「お前が料理とかできてもねえ……(笑)」と言われたこと。
一人暮らしを3カ月もしてみれば、よっぽどの苦手意識がない限りは簡単な手料理くらい作れるようになる。お金がないとか食べるのが好きだから自分で作ってみたいとか、料理をするのにもさまざまな理由があり、私の場合は毎日外に出るのも、自分の食べたいものを選ぶのも面倒臭かったから。私にはコンビニやスーパーでお惣菜を選ぶよりも、冷蔵庫に入っている食材で適当に料理をするほうが精神的に楽だった。
それに私は男の人が好きそうな手料理なんて一切作れないし、これは私による私のため料理だし、私の手料理をあなたが口にする機会なんて今後一切ないんだから黙っておけ、クソが! と言えればよかったのに、私はいつものようにへらへら笑って「えーひどい(笑)」とか言った。
同じような理由で、恋愛の話をするのも苦手だ。「どんな結婚式がいい?」「子どもは何人欲しい?」「芸能人と結婚するなら誰がいい?」という、女として生まれると一度くらいは振られるであろう、未来に関するもしもの話。「え?お前が?」という顔をされることも、苦笑いされたことも、実際にその場のオチとして小馬鹿にされたこともあるから。
原因が容姿なのか、性格なのか、はたまた私を取り巻くすべてのことなのかはわからないが、私には人に好かれる権利も好きになる権利もないんだと思った。結婚して家庭を持って子どもを産むという生活を夢見るのもいけないことなんだと思った。
私は自分について「女」だと思っていながら、女の人が普通にしている話の輪の中に入れない。私の性別は、集団のなかにおいて、宙ぶらりんになっている。女でいるはずなのに、他の女の人と同じステージに私はいない。少し下のところで、ずっと羨ましそうに眺めているだけ。だから、私は料理の話も恋愛の話も、メイクや美容に関する話も苦手だ。
誰かに馬鹿にされるかもしれない。私がしてはいけない話だという意識がなんとなくある。決定的なことがあった訳ではなくて、たくさんの人からの言葉や態度が自信と権利を私のもとからじわじわと奪ってきた。今となっては本当に仲のいい人にしか会わないからそんな態度を取られることもなく、その苦手意識も薄れてきたのだが、学生時代の私は特にそうだった。
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