小さい頃に行けなかった東京の街を体感させる
いまは夜の街で遊んでも、お酒を飲んでも、私を咎める人はいません。
しかし、レストランでワインを飲んでいい気分になっても、東京タワーが近くに見えるバーでウイスキーを飲んでも、私はあの頃憧れた東京にいるとはとても思えないのです。
きっとあの頃憧れた東京には一生行くことができないのだと思います。それが「私の行けない東京」です。
私が感じていた東京は、レストランのテーブルクロスの中のようなもので、子どもの頃は入りたくてたまらなくて、でも入ることは禁じられていて、ようやく大人になってみると、テーブルの脚があるだけの空間に過ぎません。
でも唯一、いま「私の行けない東京」にいるかもしれないと感じる時があります。
それは友人の好きなレストランに出かける時です。大事なのはそこが自分に縁のない街であること。
居場所のない私は、会社帰りの人や塾へ向かう子たちや、スーパーから買い物袋を提げて出てくる主婦や、その街で生活している人たちとすれ違いながら孤独で不安で自由です。
そして、これから友人とおいしくて愉しい時間を過ごす高揚感があります。
ひとりで知らない街のレストランへ向かう道すがら、置いてけぼりにされているような少し切ない気分だけが、私に小さい頃行けなかった東京の街を体感させてくれるのです。
Text/姫乃たま
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