世の中には知らなくてもいいことや、関係せずに生きていけばいいものも、あるとは思いつつ、あえてそこに突っ込んでいくのは、発見や新しい見識が得られて面白い。わたしにとって、そういうもののひとつが「パイ投げ」です。
わたしにパイ投げビデオ出演のオファーを掛けてきたのは、とある男性ライター氏でした。当時、氏は執筆業の傍らインディースでパイ投げビデオを制作し、販売もしていたのだけれど、その内容は、絡みはもとより脱ぎもなく、ただただ女性たちがパイを投げ合うだけ。フェチではあるけれど、露骨なアダルト要素はないものでした。
もちろんアダルトではないといっても、買って見る人たちの「おかず」とされるであろうことは理解していましたが、わたしはわりと自分をズリネタにされるのが好きというか、むしろ「実はあなたで抜いたことがあります」というようなことを正直に告げられると、「やだ、嬉しい」と頬がポッと赤くなるタイプで、なんなら相手への好意が増しすらする……という個人的な性癖はさておいて、とにもかくにも、パイ投げビデオに出たところで困ることはなにもないし、パイ投げという、ある意味で貴重な体験をできるチャンスでもある。なのでわたしは、ふたつ返事で出演することに決めたのです。
パイ投げをやってみて分かったこと
バラエティ番組の罰ゲームで、パイ投げをしているのを見たことはありましたが、実際に自分がその立場となると、まったく見えていなかったものが見えてきます。パイといっても実際に使うのは、紙皿にホイップクリームを盛ったものであること。ゆえに大量の生クリームを用意することになるのだけれども、おびただしい数の生クリームのパックが並んでいる様はバカバカしくも圧巻な景色であること。パイを投げる前には部屋の養生が必須であり、大量のホイップクリームを泡立てるのも、そこそこに重労働だということ。
そのすべての準備と労力は、「パイ投げ」という目的のためであると思うと、「なんとくだらないことをしているんだ」と呆れる一方で、心も妙に浮き立つ。
そうして準備が整ったところで、いざパイ投げがスタートするのですが、実はパイ投げというのは、一投目がキモとなります。まっさらの状態がクリームで汚される瞬間がクライマックスであり、その後は、ただの成り行きとなってしまう。ゆえに、一投目の前には、緊張感が漂う。クリームはふわふわで柔らかいし、紙皿だってぶつけられて痛いものではない。けれども、顔でモノを受ける、ということに慣れていないせいもあって、とにかく怖いのです。しかし、その恐怖感は、パイがぶつかるとともに消え去り、次の瞬間には笑いがこみ上げてくる。滑り台やブランコがひたすらに楽しかった子どもの頃のような、ただただ楽しい気持ちで満たされて、「可笑しくて可笑しくて仕方がない」という心境にトリップできる……。
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