ぽっちゃりしている私、痩せている私──『ファットガールをめぐる13の物語』に見る、容姿にまつわるたくさんの矛盾

そこそこ長く住んでしまった今の家を離れて、今年こそ引っ越そうと最近、暇を見つけては賃貸物件をネットで検索している。もちろん、今度も単身者用の安アパートだ。防犯面や治安など、女性が一人暮らし用の物件を探す際には、気を配らなければいけない項目が多い……いや、多いのは本当だし、これを読んでいる女性にも十分に気をつけてほしいのだが、なんとなく、以前よりもちょっとだけハードルを下げて物件探しをしている自分がいる。

ハードルが下がったのはそう、私がもう「若い女性」ではなくなったからだ。オートロックじゃなくてもいいかなとか、通りに面してなければ一階でもいいかなとか、基準が少しゆるくなっている。良からぬ事件は必ずしも女性の年齢や容姿を選んでこちらを巻き込んでくるわけではないので、厳密にいえば30代半ばを過ぎたからといって安易に基準をゆるめるのも考えものだが、とりあえず私の中では物件探しにあたって、以前より精神的にラクになっている。

昨今はだいぶ弱まった気もするけれど、相変わらず女性の加齢についてのデメリットを強調する世間の風潮には、私は声を大にして「年をとるって最高だよおおお!」と叫んでいきたい。身の丈に合わない窮屈なスーツをだんだん脱ぎ捨てていけるいうか……次に住む家はクッションフロアを敷き詰めて床とかアレンジしちゃうもんね、と楽天ROOMを見ながらわくわくしている日々だ。

カナダ生まれの作家モナ・アワドの『ファットガールをめぐる13の物語』も、そんな自分の「外側」を追う短編集である。私が冒頭でした話は「加齢」だけど、この小説の主人公・エリザベスが追われるのは「体型」。13の物語はそれぞれすべて、エリザベスという1人の女性の、体型の変化をめぐる物語になっているのだ。

セフレにナメられている『最大のファン』

「ファットガール」とタイトルにあるとおり、主人公のエリザベスはぽっちゃり体型である。ただし、13の短編の中ですべて同じぽっちゃり体型であるのではなく、すごくぽっちゃりの学生時代があったり、大人になってダイエットに成功して、ちょっと痩せている時期があったりする。途中で結婚したり、母親が亡くなったりする。中心にいるのはいつも同じエリザベスなのだが、年齢や体型が、物語によって異なっているのだ。

たとえば、ぽっちゃり若者時代のエリザベスが登場する『最大のファン』。この物語はエリザベスのボーイフレンド(というか、セフレ)視点で進むのだが、はっきりいってこのボーイフレンドは、エリザベスをナメている。リズ? ライザ? と名前も碌に覚えていないし、酔った勢いでいきなり家を訪れる。しかしそんな男を、エリザベスはバニラとイチジクのにおいのキャンドルを灯して、耳を落としたピーナッツバターとラズベリージャムのサンドイッチを用意して迎えるのだ。ついでに、なんだかよくわからない自作の曲も「すごい」と言いながら聴いてあげている。

男は絶対にエリザベスを恋人にはしないが、安心しきってキープし続けている。しかしある日突然、男はエリザベスと連絡がとれなくなる――彼女にとってもまた、そのボーイフレンドは替えの利く存在だったからだ。こういうイケてない人間関係は別に体型に関わらずよくある話だけど、互いの「ナメている/安心しきっている」感じが、すごく痛々しい。