自分と正反対の生き方をしている人をみると、人は不安になる

恋愛一揆 中村うさぎ AM 自分を大切に 中村うさぎさん

──「自分のこと大切にしなよ」と言ってくる男性には、女性を独占したい思惑があるということでしたが、女性が「自分のこと大切にしなよ」と言ってくる場合は、どういう気持ちからなんでしょう?

中村奔放にもならず潔癖に生きてきた女性は、その生き方が正しいって思いたいから、正反対の生き方をしている人のことを否定したり、敵意もっちゃったりするんだよね。まぁ、ちょっと嫉妬してるんだと思う。

私も若かったときは、そうそう誰とでもするってわけじゃなかったし、時代的にもちゃんと好きな人とする、みたいな感じだったから、誰とでもやる子のことは少し下に見ちゃってた。いまなら、ただ羨ましかったから見下してたのかなって素直に思えるけど、当時はまったくそう思ってなくて。誰とでもするなんて、自分を安売りしてるって本気で思ってた。

だから女性からのバッシングの場合、自分の潔癖な生き方というか、社会の枠に入った自分を正当化したいという思いがあるんだろうなと。そうじゃない生き方の女性を見るとちょっと不安になるんじゃないかな。

──バッシングしている人も揺らいでいるからこそなんでしょうか。

中村:そう、そもそもその人自身の立ち位置が不安定だからだろうなーと思います。

──あと、私は我慢してきたんだから、あなただって、みたいなところもありますよね。

中村:姑が嫁に言うみたいな。私も尽くしてきたんだから、あなたも尽くせみたいなね。

そういうのは体育会系ですよね。「俺も先輩からしごかれたんだから、お前らもしごいてやる」みたいな、ある種のリベンジ。自分をしごいてきた先輩に反発するんだったらまだしも、自分より弱い後輩にそのシゴキの伝統を押し付けるっていうのは、要するにヘタレなわけじゃないですか。

──それを伝統という言葉で正当化されるのイヤなんですよね。

中村:世の中こういうもんだから従え、みたいなね。おまえが決めるなって話なんですけど。だから、バッシングしてくる女性たちも、何かしらの形で自分の生き方を正当化しないと、自分の立ち位置が不安になってしまうというのがあると思う。
批判とか、それはどうかと思うって提言するのは自由ですけどね。

──批判はいいですものね。

中村:そうなんです。それは違うと思うって意見するのは別にぜんぜんOKなんだけど。

──あと、奔放にセックスを楽しんでいると「そんなことしてると親が泣くよ」も、よく言われるフレーズです。

中村:「親が泣く」は言われますね。私もデリヘルをやってたときに言われましたもん。「親が泣くぞ」ってあんた、私の親知らないじゃんって(笑)。インタビューでもしてきたのかよ? って。

そういうことを一方的に言ってくるのは、私に罪悪感を持って欲しいという気持ちなわけ。「親が泣く」と言われるのが私にとって一番辛いだろうと思って言うんだろうけど、私、親が泣いてもぜんぜん気にしないし。親が泣いたからどうよ? 親なんか泣かせたの一度や二度じゃない、みたいな(笑)。

だいたい親なんか泣かせてなんぼですよ。

インタビュー後編に続く

(文/渋谷チカ)

中村うさぎ
1958年生まれ。福岡県出身。同志社大学英文科卒業後、OL、コピーライター、ゲーム誌のライターを経て、1991年にライトノベル作家としてデビュー。『ゴクドーくん漫遊記』がベストセラーになる。
その後、自身の壮絶な買い物依存症を赤裸々に綴ったエッセイシリーズで大ブレイク。
以降も、ホストクラブ通い、美容整形、デリヘル嬢体験を通じた、女の生き方や女の自意識に関する著述で多くの支持を集め続ける。

次回は<「20代は価値観がグラつくことに意味がある。他人の余計な一言にいちいち悩んでいい」中村うさぎさんインタビュー後編>です。
自由な恋愛やセックスを楽しんでいるだけで「自分を大切にしなよ」や「親が泣いてるよ」などの謎のマウンティングを受けてしまう昨今。でも、果たして自分がしているこの性行為って本当に楽しいんだっけ…?そんな風に価値観がぐらぐら揺らぐ若いとき、悩んだままでいいですか、うさぎさん?