「大麻に勝るものなし」

支配されたいの正体 嶽本野ばら 落花生

―では、最後に今回の書籍についてもお話しをうかがいたいと思います。

野ばら:最初、小説を出したいというお話しをもらっていたんですが、事情があってお断りさせていただいたんです。ただ、その後も「じゃあ、こういう企画で」と何度もご提案いただいて。
僕のほうでも、書き溜めたものがあったし、薬物依存に向き合わなければいけなかったので自分の考えをまとめておきたかったんです。だからエッセイとして出版することにしました。

―著書の「美しいものとして鑑賞されたい」って記述を読んで、野ばらさんも複雑な自意識を持たれてるなと思いました。

野ばら:他者を経由していますからね。でも、その「他者」って、「自分の外」にいる別の人間ではなく、結局は「自分の中」にいる人なんですよね。
だから実際に「美しい」と評判をたててほしいわけでなく、自分で自分を美しいと思いたいんですよ。

―では、野ばらさんが思う「美しさ」って何なのですか?著者のなかでは、危険ドラッグの使用を「美しくない行為」と書いてますよね。

野ばら:僕が考える「美しさ」って、絶対的な価値観、突き詰めると「黄金比」ですね。黄金比は絶対で、完璧なんですよ。
で、危険ドラッグの使用がなぜ美しくないかというと、本当は大麻が吸いたかったのに、危険ドラッグを使ったから。自分をごまかしてたんですよね。完璧なかたちではない。

 そこで自分をごまかさず、「やっぱり大麻に勝るものなし」って大麻を吸っていたら、それは美しい。

―整合性がありますもんね(笑)。
著書を読んで、野ばらさんは「なりたい理想の自分」がすごくはっきりしている方だなと思いました。

野ばら:若いころから「かわいいでいたい」とはずっと思っていますね。僕も40代後半になったのでそうは言ってられないんですが、かわいいと言われようと努力してしまいますね。カメラ向けられると、無意識にかわいく写ろうとしたりして(笑)。

―でも、今回の書籍のポスターは、かわいいというより、かっこいいですよね。

野ばら:ですよね。だから、あれちょっと嫌なんですよ。
ポスターは何パターンか候補があって、僕はかわいいポーズでお洋服がちゃんと映っているやつが良かったんですが、編集さんが今のポスターのほうがいいって言うから。

―野ばらさんは「かっこいい」になりたいとは思わないんですか?

野ばら:これが難しくてね、僕にとっての「かわいい」が「かっこいい」になるんですよ。
たとえば、AKBにハマッたとき、僕はぱるるに対して「かっこいい!こんな女の子になりたい!」と思ったんです。もうちょっと若かったら、ぱるるの下で踊りたかった。

―女子なのに「なりたい」と思うんですね。じゃあ、逆に男性アイドルに対してはどう思っているんですか?

野ばら:やっぱり、すこしいやらしい目で見てる。男性アイドルが好きな他の女性と同じように。

―いやらしいって、「キスしたい」とか?

野ばら:性的にはノーマルだから欲望はわいてきませんが、妄想はしますよ。ジャニーズの子とか、意味もなく脱ぐじゃないですか。ああいうの見てると、すごくムラムラします。
男性は女性アイドルをいやらしい目で見ているといいますが、女性も男性アイドルをいやらしい目で見てますよ、言わないだけで。

―たしかに見てます(笑)。野ばらさんは「かわいい」に自分がなりたいと思うタイプですが、恋愛対象には何を求めるんですか?

野ばら:張り合えることですかね。同じ価値観を共有できること。でも、興味が一致してるから、ラスト1着のお洋服をどちらが買うかでもめたりするんですよね。

 恋愛では自分にないものを求める、なんて人もいますが、僕は自分にあるものを求める。結局、自分しか愛してないんでしょうね。

 だから、自分に興味がない人のバッグに射精するって妄想に、一番興奮するのかもしれない(笑)。

嶽本野ばら
作家・エッセイスト。代表作は映画化もされた『下妻物語』。「乙女のカリスマ」としてロリータカルチャーを牽引。最新刊は『落花生』
ツイッター:@MILKPUNKSEX