人は変わるんだと実感できるのが恋愛のおもしろさ
――「この人しかいない」という確定要素になる決め手って何なのでしょうか?
鳥飼 それってやっぱり頭で考えてわかることじゃないと思うんです。
ここが恋愛の不思議なところだと思うんですけど、全然合わないしすぐに別れると思っていた相手と、ケンカや衝突を繰り返して関係を補修していくうちに、「あれ、合わなくもないかも」とか、「この人なのかもしれない」と思って、ふと気が付くと足元が固まっていたりする感覚があるんですよね。
最初から「この人だ!」と思えるとは限らないから不思議です。
小学館『 This!』編集S(以下、編集 S) 私は、恋愛をすることで自分がそういう風に変わってしまうのが怖いと思っていた時期がありました。そこまで固執したい自分もないはずなのに、相手に流されていくのが嫌だ、みたいな。
鳥飼 でも、それが恋愛なのかもしれないなって思うことがあります。 自分に合う人を探すとか、好きな人とどう出会うかも大事だけど、全然そういう風に思えないような関係から、自分が変わったのか相手が変わったのかわからないうちに、これはもしかしたらいいものだったかもしれない、と気付くことが、付き合っているとある。 「人って変わるんだ」というのを実感できるのが恋愛のおもしろさなんだと思います。
編集S 自分のやり方や生き方を変えてみる“しなやかさ”みたいなものを、鳥飼さんのお仕事ぶりからも感じました。今回、鳥飼さんは『This!』で初めて鉛筆画に挑戦されたんですが、それも最初から鳥飼さんの希望だったんです。
鳥飼 最初は、鉛筆のほうが効率がいいかなと思ったんですけど、やってみたら全然そんなことなくて、想像以上に手間ひまがかかりました(笑)。でも、効率は悪かったし、直しに時間もかかったけど、思ってた以上にいいものができたんですよ。思ってたのとは違う良さを伸ばすことがおもしろいのは、恋愛も同じかもしれないですね。
――ストーリーはお2人で考えたんですか?
編集S 犬が吠えてる場面と、女の子の脱ぎっぷりを描きたいとは最初からおっしゃっていましたね。
鳥飼 Sさんが、こんなことで女として嫌な気持ちになったとか、大人からの違和感を感じていてたときがある、という話をしてくれたんですよ。それで、女の人の強さを描く感じのものがいい、ということになったんですよね。
編集S 「女性の目や視線にフォーカスをあてた内容の漫画にしますか?」と聞いたら、鳥飼さんから「意識しなくてもそうなっちゃいます」と言われたのを覚えてます。上がったネームを見たらまさにそうなっていたので嬉しかったですね。
――鳥飼さんの作品は、女性の性のありようを考えさせたり、生き方をエンパワーしてくれるようなものになっていると思いますが、そこは常に意識されているんですか?
鳥飼 漫画を描くうえで、あえて女の人にこれを言いたいとかは思わないようにしていますね。私、女の人の視線を意識しすぎると、急に甘えが出てくるというか、おもねりやご機嫌取りみたいな部分が出てきてしまうんですよ。たぶん、今までそうやって女の人の中で生きてきたからだと思うんですけど。
そうなるのが嫌なので、これを女の人に言ったら意地悪だろうな、というようなことも、あえて描くようにしています。ただ、「えぐってやろう」とかは思っていないです。女どうし尊重しながら共闘していく姿勢は持っていたいけど、そこをあえてテーマとして打ち出すことはしないようにしている、というだけですね。
――そういった煩悶や絶妙な距離感も、鳥飼さんの漫画が支持される理由のような気がします。今日は長い時間、どうもありがとうございました!
鳥飼茜
1981年、大阪府生まれ。2004年『別冊少女フレンドDXジュリエット』でデビュー。少女漫画誌を経て、現在は『BE・LOVE』(講談社)に『おんなのいえ』、『月刊モーニング・ツー』(講談社)に『先生の白い嘘』、『FEEL YOUNG』(祥伝社)に『地獄のガールフレンド』と、3誌に連載を抱えている。『おんなのいえ』は2014年に『このマンガがすごい オンナ編』で9位にランクインして注目を集めた。
Text/福田フクスケ
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