前編に続き、『私の奴隷になりなさい』のヒロイン・香奈に迫ります。
【大泉りか・官能小説から読み解く、ファムファタールのススメ】
第7回:サタミシュウ・著『私の奴隷になりなさい』(後編)
今もっとも世間をざわつかせている女のひとり、壇蜜。
週刊文春の恒例企画『女が嫌いな女』十位にも選ばれた彼女が、一気にスターダムへと駆け上るきっかけともなった映画の原作『私の奴隷になりなさい』。このヒロイン・香奈について読み解いていきましょう。
香奈はその日、昼過ぎ、グレージュ色のストライプシャツに、膝丈のタイトスカートにパンプスという格好だった。
僕は朝からずっと、ボタンを二つ外してぎりぎり見えない胸の谷間あたりと、尻のラインを盗み見ては勃起していた。
数日前に陽気な先輩と、仕事終わりで飲みに行ったときに、先輩は香奈についてこんなことを言っていた。
「香奈ちゃんて昔はさ、なんか色気のない服ばっかり着てたんだよね。女の服のことなんかよくわかんないけどさ、なんて言うの、モード系とかそういうやつ? やたら黒くてやたら体のラインが出なくてやたら足も見せないようなやつ。それが今年から急にさ、いわゆる普通のちょっとおしゃれなOLが着るような格好をし始めてさ。髪型もああいう男好きしそうなのに変えたんだよ(中略)」
先輩はべろべろに酔っ払いながら、「最初から今みたいだったら、もう何年も前に口説いてたなあ。俺」と口をとがらせて言った。僕は呆れて笑うふりをしながら、その僕が出会う前の香奈の変化と、それをさせたのであろう夫に猛烈に嫉妬していた。
大人の女としては申し分なく、かつ男がそそられるという意味では、香奈の服も髪型も文句がなかった。実際、仕事で出会う男たちに香奈は頻繁に口説かれていた。
そんなふうに噂されるほどに『いい女』である香奈と、念願のセックスをした“僕”。やる気があるのかないのかわからないくせに、ごく時たまヤラせてくれる、何を考えているのかわからない香奈に“僕”はどんどん夢中になっていきます。
そんなある日のこと。間男として香奈の家に招かれた“僕”は、コレクションされたビデオテープを見つけます。
そこに写っていたのは、香奈のあられもない姿でした。
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