女性陣から「ヤリマン」と噂され孤立する彼女

 「あの子、ヤリマンよ」
 彩子が吐き捨てるように言い、香織が深くうなずいて続ける。
「あの手のブリブリした女はねえ、裏でいろんな男に股ひろげてるに決まってるんだから」
「いやいや」
 健一は苦笑したが、頬がひきつってうまく笑えなかった。
「いくらここが個室だからって、そういう言葉遣いはいただけないなあ。自分の品位を落とすんじゃないかなあ……」
「ヤリマンに一票」
「わたしも」
 彩子と里沙が、シレッとした顔で手をあげる。
「健一さん、あの子と<梶山建築>の社長との話、知ってる?」
「いや……知らないよ……」
 健一はひきつった顔を左右に振った。具体的な名前が出てきて、心臓が縮み上がった。<梶山建築>というのは<本山材木店>と取引のあるハウスメーカーで、社長はタヌキそっくりのメタボな六十代である。
「そこの社長さん、満里奈にご執心だから、わたしたちも込みで一度接待に同席させられたのね。銀座の中華屋さん」
「びっくりしましたよね、もう」
里沙が続ける。
「こーんな丈の短い、パンツ見えそうなワンピース着てきて、社長の隣の席でキャッキャ、キャッキャはしゃいで。全員ドン引きですよ」(中略)
彩子がうなずく。
「それで、社長が帰った途端、いつものツーンと澄ました感じに戻って、ひとりでさっさと帰っていったのよ。あれは絶対、ホテルまでのタクシー代ね」
『女が嫌いな女が、男は好き』祥伝社文庫 P71L14-P74L3)

 いつもマイペースで、集団行動を崩すだけではなく、同僚の女たちには、愛想笑いさえしない。
しかし一転、男の前では笑顔を振りまき、実はチヤホヤされるのが大好きだという『女が嫌いな女』満里奈。
誰にも秘密の社内恋愛中とはいえ、女性陣からのあまりの孤立を見ていられるに間を取り持つつもりの健一でしたが、逆に不穏なリークを受けることになってしまったのです。

【後編に続く】
Text/大泉りか

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