なぜ毎回タクシーに乗るのか?

この日も同じような展開になったのだが、股間に手を置いてから30秒ぐらいだろうか。いきなり僕のズボンのジッパーを降ろし、すでに勃起しているアレを取り出すと無言でフェラチオを開始したのである! 音は出さないようにしていたが、運転手は当然気付いていることだろう。どうすりゃいいんだ、コレ。閉鎖された空間で合計3人しかいないから「不特定多数」というわけではないため、公然わいせつ罪にはならないよな、運転手のシートの後ろだから性器を公然と見せてるわけじゃないからな、といったことを考え続け、気持ち良いどころではなかった。

下北沢でも無事ラブホテルに入り、前回同様2時間を過ごし、再び電車へ。今回は我々は同じ方向だったため一緒に井の頭線に乗って渋谷方面へ。また手を振って分かれたのだが、またもや釈然としなかった。

そして翌月、今度は恵比寿の居酒屋で打ち合わせをしたのだが、渋谷へタクシーで行き、前回と同じような展開になった。幸い、運転手はラジオの野球中継に熱心だったためこちらには気付いていないようだった(あくまで希望的観測)。

小春さんの奇妙な性癖を確信した

この段階で僕は小春さんは「タクシーの中で卑猥なことをし、それを第三者が間近で見る・聴く状態が好きなのだ!」ということを確信した。円山町のラブホテルでそのことを聞いてみるとこう言った。

「そうなのよ。あとね、普通、ラブホテルのエレベーターに入ってからキスしたりするでしょ? 私、あの時間がすごく好きなの。でも、ラブホテルなんてせいぜい4階建てだから、エレベーターなんて20秒もあれば終わっちゃうじゃない。タクシーだと10分以上はあるでしょ。その時間が本当に私は好きなの。

しかも、誰かが私達のやっていることを確信はしないまでも察する感じが好きなの。滅多にない、というか1回しかないけど、女性の運転手の時はもっと興奮したわ」

なんというか、世の中には色々な性癖を持つ人がいるものだ、と感じた小春さんとの体験だった。結局彼女は数ヶ月後に人事異動で別の編集部へ行ってしまった。女性向けのメディアだったため、僕の出番はなくなり、そのままこの奇妙な「タクシー前戯」ともいうべき行為も終了したのであった。

Text/中川淳一郎