「家族の絆」幻想
私は弟にも何度も金を貸していて、その総額は200万以上になっていた。自分も余裕がなくて必死で働いていたのに。父と弟に金を渡すたびに石川啄木の顔になってじっと手を見ていたが、弟には進んで金を渡していたのだ。
「商売がうまくいかず、バイトを掛け持ちしてたら体調を崩した」みたいな話を聞くと、弟が心配で可哀想になったから。私にとって弟は「毒親育ちの可哀想な被害者」であり、自分が守らなければと思ってきたから。
そんな姉心につけこんで、彼は私を利用していたのかもしれない。弟も父と同じ「吐き気をもよおす邪悪」なのかもしれない。本当のところはわからない。わかっているのは、以前のような情はもう戻らないということだ。
うちには鳥の柄のマグカップがある。10年ほど前に弟がプレゼントしてくれて、私はすごく嬉しかった。こんなかわいいカップをくれる弟がいて良かったと思った。千円そこらのマグカップ1つでほだされるなんて……。
ヒモに貢ぐ女性の気持ちが! 『言葉』でなく『心』で理解できたッ!!
あと見た目にも騙されていたと思う。
押尾学みたいなルックスだったら「こいつ悪いこと考えてるな」と警戒するが、弟は岡田将生似の虫も殺さない系のルックスなのだ。
実際、わが家に泊まったときも、夫に「飼ってるクワガタ見る?」と聞かれて「僕、虫は怖いんで」と答えて「なんで?弟くんの方が強いよ」と噛みあわない会話をしていた。
また、弟がスキンケアセットを持参しているのを見て、夫は「弟くんはアムウェイか?」と小声で聞いてきた。そんな夫は生まれてから一度も顔を洗ったことがないらしい。
虫やゾンビが苦手で、美容やファッションが好きで、料理や洋裁が得意なイケメン。そんなキャラが乙女ゲーにいても選ばないが(武骨系が好みなので)、私はフェミニンな弟を好ましく思っていた。
親戚連中に「男女が逆ならよかったのに(笑)」と揶揄されても、私たちは仲のいい双子だった。
と、思いたかったのだ。両親が毒親だから、せめて弟とは仲良しでいたかった。「家族の絆」という幻想を、私も完全には捨てきれていなかったのだろう。
だがこのたび「よし、弟とも縁を切るか!」とサッパリした気分である。
相続放棄の手続きが終わったら、もう連絡を取ることはないだろう。向こうから連絡が来ても、私はもう二度と金を貸さない。弟が最後の家族幻想を壊してくれたお陰だ。
私は血のつながらない大切な人を大切にして、生きていく。今の私には夫と義母がいて、女友達がいて、仕事仲間も読者もいる。だから血縁はもういらない。
北欧風の仏壇の横には父の遺骨が置かれていて、友人たちが線香をあげてくれる。JJ会をすると部屋が寺みたいな匂いになるが、そんな中でキャッキャウフフとトークしている。
「マジで母親より先に父親に死んでほしい」
「わかる! あんなモラハラ親父の面倒なんか死んでもみない」
「親が死んだらクレリを紹介するわ」
「うちの妹もアホアホ丸だったらどうしよう」
「そのときは私を二親等と思って頼って」
「うん、頼る!」
人生にはヘビーなこともあるが、頼れる友達や本音を話せる場所があればなんとかなる。親きょうだいなんかいなくても、人は幸せに生きられる。
今回それを再確認して、さらに自由に身軽になれた気がする。父の自殺も悪いことばかりじゃなかった。笑えることも学ぶこともいっぱいあった。
死にがちな一族出身だが、私はなるべく元気に長生きして、JJの愉快な冒険を続けたいと思う。アリーヴェデルチ!
―次回からは『酔うと化け物になる父がつらい』『毒親サバイバル』の著者・菊池真理子さんとの対談をお届けします!
Text/アルテイシア
次回は <菊池真理子×アルテイシア対談①「毒親サバイバルと毒親ポルノ」>です。
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