むしろアクション映画のヒーローになりたい

 欧米人と話していると「記念日にロマンチックなサプライズをキメるのが夫婦円満の秘訣だ」と言う。フラッシュモブも欧米からの輸入品だし、サプライズが好きな人種なのだろう。

私が広告会社時代に付き合っていた先輩は、生粋の日本人だがサプライズ好きだった。

彼にロマンチックなサプライズをキメられるたび、私は感動に目を潤ませるのではなく「か、勘弁してくれ」と目をシロクロさせていた。

たとえば誕生日、夜景の見えるレストランで食事していると「ハッピバ~スデ~♪」とピアノの生演奏が始まり、バースデーケーキが運ばれてきて、周りの客たちの注目&拍手が集まる。

そこで私はいたたまれなさのあまり、乙女ゲーのヒロインではなくアクション映画のヒーローになって、窓ガラスを割って飛び降りたかった。

しかし当方、手首から糸状の繊維が出る体質ではない。タイミングよくヘリが現われ、縄梯子につかまり「さらばだ!ハハハハー」とマントを翻して去ることもできない。

よって半笑いを浮かべて「地獄や」と思いつつ、ケーキのろうそくを吹き消していた。

ある時は彼がリゾートホテルを予約してくれて、部屋に入ると屋外のジャグジーに花びらが浮かべられ、冷えたシャンパンが用意されていた。

「ジャグジーに入りながら乾杯しよう」と提案され、この時点でアップアップしていたが、いざ湯船につかると背中から抱きしめられ「今日は付き合って1年の記念日だね」と耳元で囁かれ、溺死しそうになった。

これが乙女ゲーの世界でCV子安武人だったら、私もうっとりと萌え転がるが、ここは現実の世界だ。自分も相手も実在する生命体で、私の腹は三段腹だし、ヒザには剃り残しの毛が生えている。

この時も湯船に浮いた虫の死骸をすくいながら「地獄や…」と思っていた。

こんな地獄のサプライズを受けるなら、男塾の富樫のように油風呂につかって「いい湯だったぜ」とクールにキメたい。それにしても、TOFUFUの読者で油風呂をわかる人が何人いるのか。