「息が…息ができない…!」

夫が考えた超人「メンス・ザ・デストロイヤー」 夫が考えた超人「メンス・ザ・デストロイヤー」

 世の中には束縛されたい人や、束縛されないと不安になる人もいる。
独身時代、彼氏に「会社の先輩から合コンに誘われた」と言われ「あらそう、いってらっしゃい」と返すと「俺のこと好きじゃないのか?!」とキレられる、といったことが何度かあった。

この場合、そもそもの価値観が違うから、どうしようもないのだ。
彼にとっては、束縛=愛情。私にとっては、束縛=支配。
私は自分も支配されたくないし、他人も支配したくない。相手を信頼して自由を尊重することが愛情だと思っているので、「俺のこと好きじゃないのか?!」とキレる彼との間には、ウォールマリア以上の壁が存在する。

また、わざわざ合コンの話をして反応を試すことにも「ケツのアナルのちいせえ野郎だな」と感じて、直腸にワインを2リットル注ぎたくなった。

そして当然、そういう人は束縛してくる。「好きだから心配なんだ!」と伝家の宝刀を抜かれて、「てめえが不安を解消したいだけだろうが!てめえの不安はてめえで埋めやがれ!」とドラゴン殺しでぶった斬りたかったが、当時の私は黙っていた。
「こんな自分がおかしいのかも?」という思いもあったからだ。

だが「キミが心配させるから」と被害者ヅラされたり「後ろめたいからことがあるからだろう」と被疑者扱いされたりで、結局はブチ切れて「キエーーーッ!!」と天人唐草エンドを迎えた。

男と付き合うたびに「息が…息ができない…!」と酸素欠乏症になり「こいつをガンダムの記録回路に取りつけろ」とか言いそうになる私は、自分は一生結婚できないのでは?と不安になっていた。

私はどうしても結婚して家族を作りたかった。
「結婚は我慢の連続」とか言うてくるオッサンもいる。そんなオッサンの言葉などビタ一文聞きたくないが、やはり結婚したけければ我慢するしかないのか…。

そんなふうに思考が迷子になっていた時、パンティ事件が起こった。

それは同僚女子と温泉旅行に行った時のことだった。
といっても、木の実ナナや火野正平が出てきて「ヌードギャル混浴露天風呂殺人事件」が起きたわけではない。

平和に温泉地を観光していたのだが、同僚は私とツーショット写メを撮っては彼氏にメールしていた。その彼氏とは同棲中で、私も何度か会ったことがあり、「ラブラブなのだな」と思っていたのだが。

夜、同僚は彼氏と電話で口論していた。「言われた通り、写真も送ったでしょ!…もう話にならない、アルにかわる!」という展開になり、事情を聞くと「男と旅行してるんじゃって疑ってるのよ。アルはカモフラージュで、本当は男も一緒なんじゃないかって」

そう聞いて、率直に「そいつ頭に虫湧いとんか」と思った。写真の端に火野正平が見切れていたわけでもあるまいし、何言ってやがる。呆れ果てつつ、電話をかわって彼氏と話すことになった。

「そもそも、なんでそんなに疑ってるの?」
「それは今朝、彼女が勝負パンティを履いてたから…」

ここで私が耳を疑うことになった。

「パンティってなんや」
「彼女が気合いの入った勝負パンティを…」
「だからパンティってなんやねん」
「普段履かないヒラヒラしたパンティ…」
「まずはパンティをハッキリさせようや」

平行線のまま電話を切り、私は「亀仙人以外でパンツをパンティと言う男はやめたほうがいいと思う」と同僚に告げた。
すると彼女は暗い顔で「うん…たしかに面倒くさい部分もあるけど、やっぱ結婚したいし。そのためには我慢も必要かなって」と答えた。

その時、腹の底から声が轟いたのだ。
「そんな我慢しなきゃいけないなら、死んだ方がマシだ…!!」

「結婚は我慢の連続、人生の墓場だ」と言うオッサンたちは、一反木綿やぬりかべと墓場で運動会をしてればよい。だが私は50年も墓場で暮らすなどごめんだ。
幸せになれる相手じゃないと、結婚しても意味ないじゃないか。

昔、元彼に下ネタ禁止令を発令されて「それは私に死ねと言ってるのか?」と聞くと「じゃあ下ネタ言ってもいいけど、俺以外の男の前ではやめてくれ」と返された。
呼吸するように下ネタを吐く人間にとって、それは「俺以外の男の前では息をするな」という意味だ。
結局、酸素欠乏症になってその彼氏とも別れた。

寂しがりやだけど、束縛されると息苦しくて死ぬ。そんな厄介な自分を持て余し、絶望しかけていたところへ、59番目の夫が現われた。

夫の前では「マ・クベのあの壺は、キシリアにオシッコを注いでもらったんだと思う」とのびのび持論を語れたし、クリスマスには二人でエロ川柳対決をした。ちなみに「北斗の拳」のお題で夫が詠んだ句は「リンの乳 バットのバットも そそりたつ」

クリスマスにそんな対決まっぴらだ、とおっしゃるご婦人は多いだろう。だが私は「自由に息ができる…なんて楽なんだ…!!」と感動していた。

また、夫が「僕の考えた超人」として、メンス・ザ・デストロイヤー(ティーカップマンのようにタンポンを振り回して攻撃する超人)のイラストを描いてくれた時も、腹を抱えて笑った。

水族館でデートした時は、夫が「サメやエイにはクラスパーと呼ばれるチンポが生えている」と解説してくれて、エイの股から長いひも状のクラスパーが出ているのを見て、二人同時に「タンポン!」と叫んだ。

べつにタンポンで結婚を決めたわけじゃないが、タンポンの話もできない相手とは暮らせない。
そして私は我慢して息ができないんじゃなく、笑いすぎて息ができなくなるような相手と暮らしたかったのだ。

自分の結婚生活がつまらないからって「結婚は人生の墓場だ」と語るオッサンの尻には、バットのバットをぶちこんでやりたいと思う。

Text/アルテイシア
※2016年11月29日に「TOFUFU」で掲載しました

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