「母は男選びを間違ったな」
フェミニストの小倉千加子さんは「結婚はカネとカオの交換」と語ったが、わが両親の結婚はまさにそれだった。
母は美しい人だったが、父と言い争う最中「金持ちだと思ったから結婚したのに!」と吐き捨てる顔は醜かった。
父は母より若く美しい女と浮気をして、私が小学生の時に家を出て行った。
離婚後、アルコールに溺れる母に対して、十代の私は「しっかりしてよ」と思っていた。
「ちゃんと働いて子どもを育ててるシングルマザーもいっぱいいるのに」と母のことを軽蔑していた。
でも今ならわかる。23歳で専業主婦になり、ろくに働いたこともなく自立したこともない、コピーすらまともにとれない母にそれを望むのは酷だったと。
AMの『VERY妻になりたかった母の死』で書いたように、母はアル中と摂食障害で入院して、その半年後に亡くなった。
病院でひさびさに会った母はガリガリに痩せていて、「バタリアンのオバンバみたい…!」と息を飲んだ(80年代ホラー映画を観て育った世代)
その姿で主治医に「誰か男の人を紹介して、お金持ちと結婚したいの」と訴える場面はまさにホラーだったが、それ以外の生き方を知らなかった母を気の毒に思う。
母が死んだ日、一応父にも連絡を入れた。父の第一声は「俺は葬式には行かないからな」だった。
予想通りの反応だったが、私は無言で電話を切って「母は男選びを間違ったな」と思った。
私は母を嫌いだったが、見栄っぱりで贅沢が好きな女などいくらでもいる。もっと優しく愛情深い夫、家族を守る意志のある夫と結婚していれば、母は案外幸せに暮らせたかもしれない。
少なくとも、あんな死に方はせずにすんだだろう。
貧乏でもいい、たくましくあってほしい
29歳の冬、私と夫は「ガンダムが縁で出会ったし、一年戦争が終結した記念日に婚姻届けを出そう」と話し合った。
が、その記念日の直前「もう一度考えてほしい、本当に結婚していいのか?」と夫に聞かれた。
「オイオイ何を今さら」と返すと「俺は今までの彼氏のような贅沢な暮らしはさせてあげられない。それでキミが後悔するのはイヤだから、もう一度じっくり考えてほしい」と言われて、「漢よのう…」と痺れた。
彼女いない歴=年齢の素人童貞で、これを逃したら結婚できない可能性大なのに、こいつスゲーなと感心したのだ。
そこで「何を言うか貴様、そんなことは百も承知で決めたのだ、見損なってもらっては困るぞ!」と武将のように返して、我々は婚姻届けを提出した。
私は結婚にキラキラしたお花畑的イメージを抱いてなかった。
むしろ荒野を走る死神の列が黒く歪んで真っ赤に燃える戦場だと思っていたので(©哀戦士)、だからこそ「何があっても二人で乗り越えていこう」と覚悟をもてる相手を探していた。
そういう覚悟のない男はイヤだったし、何があっても逃げない、困難を乗り越えるタフさのある男を求めた。
我が夫は、金はないがタフである。今まで出会った誰よりも、心身ともに打たれ強い。
最近、夫は右腕の手術を受けたのだが、筋肉が太すぎて麻酔の針が曲がったらしい。
それを聞いて「かわいそうなゾウか」と思いつつ「痛かっただろう、かわいそうに」と言うと、夫は「平気」と左手でダンベルをあげていた。
その姿を見て「漢よのう…」と痺れた。
やっぱり私は、自分の男には貧乏でもいい、たくましくあってほしい。前時代的だと言われても、強い男に守ってほしい(経済面の守りは私が固めるので)
だってしかたない。私はりぼんじゃなくジャンプ派だったのだから。
先日、夫が真剣な顔で考え込んでいたので「何考えてるの?」と聞くと「どうすればディオみたいに強くなれるか」と返ってきた。ストレイツォか。
また「ちょっと壁ドンしてみてよ」と言ったら「サンシャイン・マグナムー!!」と叫んで、背中をドンと押された(サンシャインの体をアシュラマンが背中から打ち抜く必殺技)
いちいち面食らうが、中二な夫も面白くて悪くない。まあ要するに我々は、中二同士の夫婦なのだな。
Text/アルテイシア
※2016年8月23日に「TOFUFU」で掲載しました
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