順風満帆だった夫のサラリーマン生活が…

生まれ育った環境が複雑だったわりにはグレもせず(この辺、詳しくはこちらの記事をご参照ください)、明るく天然で、おバカでイケメンー、つまり、鬱になる要素など1つもなかった夫が病み始めたキッカケは、偶然のタイミングでした。

仕事に対する不満がないわけではありませんでしたが、ほぼ順風満帆だった夫のサラリーマン生活。が、ある年の春の異動で子会社へ出向となったことから、ビリビリと細かいヒビが入りはじめたのです。それまで、国内シェア一位である本社の現場でバリバリ仕事をこなしていた(つもりだった)夫が、子会社では新規事業部で手探り状態で仕事をすることに。納得のいかない場所で、先の見えないことを毎日朝から晩までやらされる、というストレスが、徐々に夫の顔を曇らせていき、横で見ていた私も「ヤバいな…」と感じていた矢先のことでした。

夫が、交通事故で重傷を負ってしまうのです。泣きっ面にハニービーよ。うん、重たいこともルー語で書くと心が軽くなるのね。気のせいか。

事故の経緯をザックリまとめると、自転車で車道を走っていた夫を、配達中の軽トラが左折に巻き込んで撥ね、鎖骨を骨折。うん、普通なら100:0で相手の過失ですよ…普通ならね。しかし、夫は天然の不思議ちゃんっぷりを発揮して(なぜ)、折れた肩を押さえながら「痛すぎて早く帰りたい」と(なぜだ)、パトカーも救急車も呼ばずノークレームで帰ってきちゃったのです(なぜなんだ)。

「仕事中なので警察を呼ばれると困る、示談にしたい」という相手の申し出を二つ返事で受け入れ、その場でタクシー代を「示談金」として受け取って帰ってきてしまった、というのです…。しかも、相手の名前も連絡先も聞かず、ナンバーを写メることすらせずに。

バカもホリデーホリデー言え。

タクシー代??? 骨折れてんのに???
それ、どんなボンクラ弁護士でも100マンはぶんどれるやつ!!!

ウシジマくんを愛読書とする私は怒りに震え、「示談金」の意味をその日まで知らずに生きてきてしまった夫に、せめて「ギャル汚くん」のエピソード(第4巻)だけでも読ませておけば…と唇を噛み締めました。

が、後悔先にノットスタンディング。命があっただけマシ、と思い、ぶんどれるはずだった5000兆円のことも忘れ、なんとか2度の手術と入院を乗り切ったものの、腕が元通り動かせるまでに1年はかかってしまいました。

その間、夫の鬱状態が加速していくのはもうキャントストップでしたね。ねぇ、もう、ルー語、いいかな? なんか疲れるわ逆に。

事故からしばらくして、「もう会社なんか辞めて好きなことしなよ。金は私がなんとかする!」と夫に伝えたのは、カッコつけたかったからじゃない。朗らかな夫とは違い、もともとメンヘラ気質だった私には、「貧しいとき」よりも「病めるとき」が長引くことの方が、ずっと怖いとわかっていたのです。

いま無理させたら、マジでヤバイ。私が仕事を増やして節約すれば、夫がしばらく無職でも致命傷にはならんだろう、それに日本にはまだ2000社も上場企業があるのだし、1社くらいはまた雇ってくれるだろ、と。

「病めるとき」をこじらせたら、私や子供の心も折りかねないですもん。そっちのが貧乏よりずっと危ない!

こうして意気揚々と大黒柱を買って出たものの、いかんせん経済に疎い私。こんなに不景気なのは自分がいる業界だけ、と甘く見ていたのですが、すっかり貧しい国となった日本で、アラフォーの再就職がこんなにもハードなものだとは…。

履歴書を出しても出しても面接すらしてもらえない、50社以上に送っても打率ゼロ、そんなしんどい時期が一年ぐらい続きました。そして、親が活動休止している間も子供の成長は待った無しで、習い事や塾代はどんどんかさみ、ついには「お受験したい!」と宣言されてもう涙目。「私立・学費」で検索しては知恵袋のマウンティングコメントに打ちひしがれる日々。だ、大丈夫、ママ頑張るから!(震え声)

その後、プライド捨てたり妥協したりして、どうにか夫も仕事を見つけ、「病めるとき、貧しいとき」をとりあえずは脱した我が家ですが、この先どうなるかなんてわからない、ということがわかっただけでも儲けもんかな。「大企業?ふーん」なんてスカしてたのがもう幻のように遠く感じます。

しかし、「世田谷区で旦那さんが無職なのって私だけじゃね?」と笑い話にしていたところ、「え、うちもだよ?」「うちの旦那もう何年も無職」と周りのママ友たちから続々と声が上がり、普段、SNSでは見ることができない現実のエグさに震え上がりました。聞けば、それなりのキャリアがあるのにどの業界も斜陽で再就職が難しいという。おいおい、一体どーなってるんだ、この国の経済は。そりゃ、あんだけ履歴書出しても落ちるハズだよ。もう国が病んでるし貧しいってことね。私が言うのもなんだけど、マジで大丈夫か、日本。

Text/ティナ助