ちらし寿司に入っていない菜の花に春はくるのか      

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 ちらし寿司における菜の花は、ひな祭りシーズンの“春らしさ”を一手に引き受ける大切な存在。
彩り的にもパッと目を引く緑色で、ちらし寿司全体のバランスを統率するのに必要不可欠ですし、堂々たるセンター感もあります。

 しかし、菜の花は食材としてはきわめて異色の存在です。
ちらし寿司の上では華やかな彩りを放っていた彼女も、酢飯という舞台を降りてしまえば、ちょっとクセのある食用の花。
おひたしや和え物にされることもありますが、いずれも「お通しかよ!」みたいな冴えない立ち位置であることは否定できません。

 レンコンでさえ、肉をはさんで揚げればメインのおかずになるのに……。

 ちらし寿司を好きな人はたくさんいるし、「ちらし寿司に入ってる菜の花が好き」という人もたくさんいますが、「好きな食べ物は菜の花」とわざわざ挙げる人はあまりいません。

 女性の魅力もまた同じです。
チアリーダーで踊ってるときはかわいかったのに、私服で会ってみたらそうでもなかった。
秘書課の中ではアイドル扱いなのに、実際は愛人体質を抜け出せない。
合コンでいちばん目立っていた女性が、結局お持ち帰りされない。

 集団や全体の中では特権的な魅力を放つのに、個としてはその資質が埋没してしまう。
世の中では、そういうことが往々にして起こるのです。

 前田敦子は、テレビのバラエティ番組などで、ときどきびっくりするくらい電池の切れた“無”の表情になっていることがあります。
しかし、実はそちらこそが、AKB48という重たい看板を下ろしたときの彼女の本質なのではないか、とも思うのです。

   野に咲く一輪の菜の花となった彼女の行く末を、いささか心配しつつ見守っていきたいと思います。

Text/Fukusuke Fukuda