感情がぶつかり合い、もう誰も止められない男と女のもめ事。すでに法律事務所に駆け込んでくるときは、いつだって修復不可能。本来であれば、男側にひとり、女側にひとり、それぞれ違う弁護士がつき、弁護するのが原則だが、この連載では、僕ひとりが公平にそれぞれの言い分を聞き、アドバイスしていく。少々厳しいことを言うかもしれないがあしからず。 では、早速。前回の女性からの恋愛相談は、不倫相手の男性が好きすぎるあまり、彼の本音が聞きたいと男性の職場や自宅にFAXを送り続けている女性。今日は、FAXを送り続けられている男側の言い分を聞く。
■相談2
近藤光也(仮名/30歳/営業)
「職場にも家にも浮気相手から嫌がらせFAXが届きます。もうどうしたらいいのやら」
助けてください…。 ここ数週間、僕の浮気相手の美智子が、僕と妻、子供が住んでいる家や職場にまでFAXを送りつけてくるんです。そこには、美智子と僕が結婚することになりましたとか書いてあるんです。そのせいで、妻が実家に帰ってしまったし、職場でも白い目で見られて、たまったものじゃありません。
もちろん、彼女には止めてくれとお願いしたんですが、僕と妻が別れるまでやめるつもりは毛頭ないと言われてしまいました。 確かに、僕は彼女と付き合うために、僕の妻も浮気しており、妻とはいずれ別れるつもりなどと言ってしまっていました。 酔いにまかせて「将来的には結婚出来れば良いね」なんてことまで…。
けれど、そんな台詞は、その時々に口説いた勢いで出たものだし、まんま重く受け取られても困ってしまいます。 男ならそれくらいの嘘というか、甘い言葉を囁く時だってあるじゃないですか。 それなのに、彼女は、もしあなたの言葉が嘘なら、結婚詐欺として警察に被害届を出すとまで脅してくるんです。そこで質問なんですけど、僕は結婚詐欺をしたのと同じような罪になるんですか? あと、何とか彼女の暴走を止めたいので、何か方法があったら知りたいです…。
相談者・近藤光也「これってやっぱり結婚詐欺にあたってしまうんですか?」
コーメイ弁護士「罪に問われることは、ない」
君は、「結婚詐欺」について心配しているということだね。 「結婚詐欺」というのは、詐欺罪のひとつに当たるもので、たとえばこんなケース。 ある男が、交際している女に「経営している会社が潰れそうで困っているので、資金を貸して欲しい。そのおかげで会社が無事立ち直ったら、君と結婚したい」ともち掛け、繰り返し女から金を巻き上げていく、なんてことが典型的なエピソード。 ただ、このケースでも、本当に男が会社を経営しているのであれば、結婚詐欺で訴えることは難しい。会社が潰れそうなのが、嘘であったと言い切るのは難しいから。 今回、君は、体の関係を持っただけで、財産上の損害が特に発生していない。よって、結婚詐欺と言い切るのは、とても難しいので、なのでその点は安心を。 恋愛は、多かれ少なかれ駆け引きの要素がある。殴られたりお金を盗まれたりしていないのであれば、ウソをつかれたという理由だけで警察が出動するほどの大騒ぎにすべきかと言われれば、やっぱり難しいのが現実。かの「行列ができる法律相談所」の北村大先生も、おっしゃっておられる。「恋愛は騙しあいが当たり前で、何やっても自由、通常の恋愛はこんなもの」(wikipediaより) ただ単に、嘘をついてセックスをしただけで詐欺罪に問われることはほとんどない。
相談者・近藤光也「彼女を止められる方法はありますか?」
コーメイ弁護士「止める方法は、ない??」
強いて言うなら、方法はふたつ。
パターン① 解決金を払え! 実際のところ、お金の伴わない誠意というのはなかなか考えにくい。 では、いくらくらい支払うべきなのか? 今回のようなケースは、争いそのものは、単なる痴話喧嘩のレベルに過ぎない。だが、君には奥さんがいるのだから、いわゆる不倫だ。 つまり、逆に、美智子さんの方こそ、奥さんに訴えられても全然おかしくないわけで、本来は相手が不利な立場ってことになる。 だから裁判で、君が美智子さんに対し、賠償金を支払えという判決が出るというのは、実は考えにくい。
どうしても辞めさせたいのなら、結局、君が彼女に対しいくらまでなら払えるかってことになる。1000万円くらい、ドンと払えば止めるだろう。ただし、君にそんな大金とても払えない。で、せいぜい数万円から数十万円といったところでしょ? 支払えるとすれば。数万円から数十万円という金額は、解決金の相場から大きく外れているということはない。 ただ…、心配しているのが、その程度を払ったとしても、彼女が約束を守って、FAXをすぐにちゃんと止めるかどうか。
ひと目を気にせず、ところかまわず求婚してしまうくらい、君にハマっている。約束を破ったら違約金を払う契約を結んだとしても、それくらいで冷静になるか? 僕には、そこはわからない。
パターン② 警察に訴える ストーカー規制法。特定の者に対する恋愛感情、その他の好意感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で、その特定の者又はその家族などに対して行ういくつかの行為を「つきまとい等」と規定し、規制している。 具体的には、
① つきまとい・待ちぶせ・押しかけ
② 監視していると告げる行為
③ 面会・交際の要求
④ 乱暴な言動
⑤ 無言電話・連続した電話又はファクシミリ
⑥ 汚物などの送付
⑦ 名誉を傷つける
⑧ 性的羞恥心の侵害 の8つの行為のことを「つきまとい等」という。
今回のケースだと⑤及び⑦にあたる可能性があるし、今後③にも該当する可能性が高い。上記①~⑧のケースに該当する場合には、最寄りの警察署に相談すれば、「つきまとい等」を繰り返している相手方に警察署長等から「ストーカー行為をやめなさい」と警告してもらうことができる。 さらに、警告に従わないで相手方がつきまとい等を継続した場合は、東京都公安委員会から「その行為はやめなさい」と禁止命令が出されることになる。 その禁止命令にも屈することなく「ストーカー行為」をすると、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金が科さられることになる。
警告や禁止命令なんかじゃ思いとどまりそうにないケースの場合であれば、警告の手続等をすっとばして、あなたが相手を告訴して、処罰を求めることもできる。(但し、上記①から④については、身体の安全、住居等の平穏若しくは名誉が害され、又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるような方法により行われた場合に限る) この場合の罰則は、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金で、禁止命令に違反した時よりは軽くなるが。
一般的には、警察から警告が行けば思いとどまる人がほとんどだと思うけど、世の中には、警察に捕まろうが、お金を失おうが、愛の為に開き直って戦い続ける人もいるから、その場合は、なす術がない。
【今回のケースでコーメイ弁護士が思うこと】
今回のケースでは,美智子さんの方は失うモノが何もない状況。一方光也さんの方は家族や職場での人間関係等,失いたくないものが多い状況にある。このような場合に,光也さんの側が不利な立場に追い込まれるのは当然かもしれない。 だって美智子さんは何も気にせずに行動を起こせるんだから。
このようなトラブルに巻き込まれずに浮気をするためには,お互いに弱みがあるような人と付き合う(相手も家庭を持っているとか)か、すべてを失っても構わないという覚悟で望むしかないかもね。