こじれた恋心はマウント

もしかしたら、猫に似ている女はただ単に、長井に会いたいマンに好意をアピールしたかっただけなのかもしれない。でも、複数人でいる中で誰か一人にだけ飛ばすエネルギーは、そのほかの人間への圧力になることがあるのだ。そういう、自分でも気づかないうちの周囲へのマウントって、私もやってしまっていることがあるかもなと思うと怖くなる。

凄く凄く好きな人が目の前にいたとしても、二人きりでないのならきちんとみんなのことを考えなくちゃいけないはずだ。恋心は、他人には関係のないことなんだから。自分の欲望のために人を困らせてはいけない。

猫に似てるとか言いそうな女の方ももちろん興味深いけど、長井に会いたいマンの方も不思議で、途中、こいつもヤベーのか? と思ったのは、長井に会いたいマンが「こいつ(猫に似てるとか言いそうな女)、不倫してたんだよ」と暴露した時で、いや、もうそのコミュニケーションなんなの? どこで習った? お前もお前で浮かれてんのか? 猫に似てるとか言いそうな女は「もう!!それはもうやめた!!(プンプン)」ってなんかちょっと喜んでるし、こいつら新手の前戯の真っ最中か? 全くついていけねーよ。

飲み会終盤は、どこに話を投げても、猫に似てるとか言いそうな女が鬼リベロで球を拾いに行って、どんな話題でも匂わせにつなげるという好プレーを見せ、わたしは閉口。二人っきりでやってくれと思いながら店を出て、それぞれの帰路に着くとき、最後のドラマは起きます。

100の匂わせより1つの行動

店の前の路地でさようならをしている時、長井に会いたいマンがティッシュで口元を拭いました。すると、その、ティッシュを、くノ一がごくごく自然な動作で受け取ったのです。これは…なんだ?!?! 会社の後輩は、先輩の使ったティッシュのゴミを受け取るもんなんですか? それって普通のことなんですか? いいや、この行為は、明らかにおかしい! この二人には何かがある!! 店内ではずっと目立つことのなかったくノ一が、店先の暗がりでついに動いた瞬間でした。さすがくノ一。言葉よりも行動が勝った瞬間です。

どんなに言葉を尽くして、「この人と私は特別な関係ですよ!」と匂わせたとしても、そんなことよりもふとした時の無言の動作の方が力を持ってしまう。だって、既にあることってのは、わざわざ説明しない。恋人に向かって「実家もなんか二人で行ったよね」とは言わないのだ。恋人だったら「なんか」とかではない。

それに気づくと、なんだかやるせなくなってしまった。好きな人にとって「他の人とは違うなにか」でありたいという切実な気持ちが、猫に似てるとか言いそうな女をおかしくしていたのか。彼が特別視してくれないから、せめて私たちには「他の人とは違う関係」と思われたかったのだとしたら、切ない。

帰り道、くノ一と長井に会いたいマンは二人で歩いてどこかにいきました。それはただ単に、二人が同じ方角だっただけかもしれないけれど…そうは思えない夜にしたのはもちろん、猫に似てるとか言いそうな女。

TEXT/長井短