洞窟内で婚活パーティー(?)をするホモ・サピエンス
河合 ホモ・サピエンスの残した洞窟壁画から、そこが「男女の出会いの場」だったのではないかという説を唱える人もいます。その壁画、洞窟の入り口から数100メートルも奥の真っ暗で不便な場所に描かれているんですよ。だから、鑑賞のための絵ではなく、何かの儀式やお祭り、出会いの場などに使われていたと考えられるんです。
――ホモ・サピエンスの男女がたくさん壁画のある会場に集まるってことですよね。婚活パーティーのようですね! 恋愛感情が生まれたことで、浮気や離婚をすることはなかったのでしょうか?
河合 浮気はあったかもしれませんが、片親になると子どもを育てられないので、基本的には何があっても別れなかったと思います。せいぜい、石器を投げつけて喧嘩をしたくらいでしょう。まだホモ・サピエンスの時代の恋愛は、今と比べたらシンプルなものだったはずです。
――こうして考えると、恋愛感情が今よりシンプルだったホモ・サピエンスの時代や、恋愛感情がなかったそれ以前って、恋愛に悩むこともなく、合理的な手段で繁栄していったわけですよね。恋愛感情が生まれたことって、正しい進化なのでしょうか?
河合 実際、恋愛や恋愛感情は無駄か無駄じゃないかで言えば、無駄です。プレゼントして、デートして、ディナーをご馳走して、と大昔と比べたら、無駄にコストがかかっています。ですが、恋愛をすることによって、絆が深まって、子育てがしやすくなるわけで、そういう意味では進歩なんです。
アウストラロピテクスもネアンデルタール人も、そのもっと前のサヘラントロプス・チャデンシスもみんな、恋愛どころか、この景色きれいだな、この木の実おいしいな、といった感情すらなかったはず。合理性からは遠ざかったかもしれませんが、石器のおかげで脳が発達して、高度な幸せを享受できるようになったのは間違いありません。
――元を辿ると石器のおかげだったというのは驚きでした。
河合 そうです。恋愛感情とは、人類の進化が作った最高の“無駄”です。
(取材・文/朝井麻由美)
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