「レイプされた」と言いふらしてしまいました

太一さん(千葉県)
エピソード:
 初めまして、男ですが読んでます。とても勉強になるサイトです。
 このサイトを読んでいたら、自分の最低なエピソードを思い出してしまいモヤモヤが取れなくなり、投稿します。
 僕は20歳になるまで童貞でした。正確には19歳と10ヶ月まで。
「20歳までに童貞を捨てなきゃいけない」というのを気にして、とても焦っていました。
 そのとき、僕の家によく遊びに来ていた仲の良い幼なじみがいました。
 その日、自分の部屋でいつものように彼女に
「俺はなぜ童貞なのか」
みたいなことを愚痴っていると、彼女は優しく笑いながら
「そんなにヤりたいならヤる?」
と言ってきました。
 本当にそんな気はなかったのですが、彼女は強引に僕を押し倒すと、触り、脱ぎ、と順序良く進めていきました。
 僕はショックを受けてしまいました。彼女はもっと清純で分別のある子だと思っていたので。
 コトを済ませると彼女は何事もなかったかのようにシャワーを浴び、布団を敷いて寝てしまいました。
 朝になると、もう既におらず、その日からもう連絡しても返ってこなくなりました。
 そのあと僕は、この体験を友達に言いふらしました。
「レイプされた、こんな童貞の捨てかた考えもしなかった」と。
 本心では童貞でなくなったことにほっとしていたのに。
 当時の自分の自尊心や無知さをいま彼女に改めて謝罪したいです。

同情と呆れと哀れの性交渉失ったのは童貞だけか(太一)
ヤりたいと言ってたようなもんだよとレイプしたのは僕の方だね
童貞と君との関係捨ててから僕はそれでも幼いままです
朝起きて送ったメールに返事なく幸せになってくれていますか

 短歌、たくさんいただきました。ありがとう。もやもやがいっぱいあると創作活動は活発になるものですね。並べてみたらいろんな角度から苦しむ気持ちが伝わってきてよかったので、全部載せてみました。

 エピソードも、ダイソーの「ザ・童貞」のコーナーにずらっと並んでそうなぐらいに見事に童貞らしい後悔です。

「かっこよく童貞喪失をキメたい!」という理想と、あんまりかっこよくない形で初体験を済ませてしまった現実との差を充填するためのパッキンとして、太一さんの無意識の怨霊が生み出してしまった方便が「レイプされた」だったのでしょうね。

 その怨霊の名前を、僕は知っています。こいつは「性差別」という怨霊です。

 読者諸姉からすれば「何をくだらないちっぽけなことで」とお怒りとは思いますが、「初体験からきちんと男として機能しなければならない」という童貞のプレッシャーというのは、「女はこうあらねばならない」という「性役割の押し付け」の悪習を別の角度から見ているだけのことです。

 童貞時代の太一さんの心の中にあった「男はこうあらねばならない」という差別的な男女観が、まだ若くて繊細だった心を深く傷つけてしまったのですね。

 こういう価値観というのは個性としての「自尊心」というよりは、もっと社会的に植え付けられたものだと思います。家族だとか所属するコミュニティだとか読んだり見たりしてきた作品などを経由して寄生してしまった罪深い怨霊です。そして、それと向き合ってきちんと現実を背負っていけば、変わることができます。

 太一さん、その後、自分の中の「こうあらねばならない」という怨霊の声に左右されていませんか。喧嘩をしても二人だけで新しいルールを作っていく恋愛、できていますか。

 そういう風に向き合っていくことが、幼なじみの彼女に対する何よりの贖罪になるのではないかと、思いますよ。

守れない約束ばかりする君を最後に許すため歌う歌

「密室・おへやデート」編、まだまだ募集中です。

 というわけで本日はここまで。来週も引き続き同じテーマで募集しております。今回のいろんなエピソードを読んで記憶のフタが開いちゃった方、ぜひ教えて下さい。

 長く書いてくれても嬉しいです。こちらでうまいことリライトいたしますので、気にせずに思うままに書いてきてくだされば。

 こちらのフォームから。ぜひぜひ。

Text/佐々木あらら