3人で飲んでいたときに男女2人だけで消え、その後ホテルへ行くという経験はこれまでに何度かしてきた。大抵の場合、僕の同業者の男が「今度〇〇さんっていう面白い同業者がいるんですが、3人で飲みましょうよ~! 色々仕事も融通してくれるかもしれませんよー」などと言い、日程を彼が調整してくれ、いざ当日を迎える。
山川君と僕はフリーライターとして仕事をしていたのだが、互いに仕事を出し合う中だった。そんな山川君は、北海道で看護師をしていたという異色の経歴を持つ同業者女性・敏子さんともよく仕事をしており、優秀なのだという。
当日会ってみると、タレ目で、敢えて動物に例えると……と言われたら「タヌキ」と答えるであろう愛嬌があり、可愛らしい女性だった。年齢は僕の2つ年下だった。
「ニノミヤさんのことは聞いてましたよー。なんか最近、色々なところいでご活躍しているとのことで」
「いえいえ、敏子さんや山川君ほど幅広い仕事をしているわけではありません」
などと、謙遜を交えながら、我々は業界ネタで盛り上がった。この手の話になると、話は大体このようなところに落ち着く。①各メディアのギャラ事情②クソ編集者の実名晒し上げ③仕事獲得術④共通の知り合いの確認⑤現在かかわっている仕事内容⑥将来の展望・心配⑦業界のスゴい人⑧やたらと感じの悪い芸能人についてのエピソード
若いフリーライターは元気だけはあるが、大抵は貧乏である。僕らは少しずつ上がってきており、「中堅を間近にし、多分次のふるいでは落ちないだろう」といったポジションの3人であることは分かった。
フリー同士は仲間ではありつつも、仕事を奪っていく敵でもある。そして、自分以外の誰かが著書を出したりギャラが高いメディアで仕事をすると若干の「チクショー!」感というものは出てしまうもの。この日の3人は奇跡的にほぼ同じレベルでこういった嫉妬的なものはなく、建設的な話ができたと思う。
テーブルの下で僕の腿に手を当てて…
そして、前にも書いたが、世の中には突然テーブルの下で足を靴で触れてくる女性がいる。靴と靴をぶつけることもあれば、脚を組んでブラブラさせ、それが僕のズボンのふくらはぎあたりに当たるというパターンだ。これが何回か続くと「こちらに悪い気は持っていない」ということは分かる。
そして、この日、敏子さんが決定的だったのは、山川君がトイレに立ったとき、テーブルの下で僕の腿に手を当て「この後、もう一軒行きませんか? 私は校了があるとか色々適当に言えるので、ニノミヤさんも『オレもあるな』とか言ってください。別れてから10分後に、松濤の『B』というバーで待ち合せましょう」と言った。
店を出ると我々は3方向へと分かれて歩き始めた。山川君が渋谷駅の方へ向かったのを確認し、僕は松濤へ。途中、後ろを振り返ると敏子さんもいたが、ここで待つようなことはせず、とりあえずバー「B」へ。
ここでも相変わらず仕事の話や共通の悩みなどを楽しく話し合うことができた。僕は一般の会社員からライターへの転身、敏子さんは看護師からの転身。ここでは「ずっと文筆業でやってきた人々からバカにされている気がする」という話で盛り上がった。
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