完璧では終わらない
ここまで完璧な町娘ですが、私がAMのコラムに書いているということは、完璧では終わらない、終わるわけがないということはもう皆さんお気づきでしょう。その通り。技術点、芸術点、どちらにおいても高い得点を叩き出していた町娘ですが、徐々にバランスが崩れ始めます。酔いです。アルコールが回り始めた彼女は少しずつ少しずつ、リアクションがオーバーになっていきました。そこまではよかった。しかし、オーバーリアクションは少しずつ形を変えていくのです。
「すごーい!!私さぁ、ほんとそういうのできないんだよ‥この間も失敗しちゃってさ‥」
「えー私全然うまく字書けない」
「自転車苦手なんだよねぇ〜やばいよね大人として!!」
出来ない話が出てくる出てくる‥!え〜待ってよ町娘!あんたできることめちゃくちゃあるよ?出来ないことはあるだろうけど、全然できること足りてるよ?!?!あんなに見事だったはずの町娘は、今や「できない」を繰り返すだけ。何故?!?!何があなたをそうさせる。あなたはもっと、自信を持っていいはずだ。誇りを持っていいはずだ。そんな「できないの〜」とか言わなくたっていいじゃん!普通に楽しい三人組って感じだったよ?それなのに、突然始まった卑下ラッシュ。それじゃあまるで、雑な飲み会みたいじゃない。私は悲しいです。なぜなら気持ちが、わかるから。
自分にできることがあればあるほど、それをわかっていればいるほど、全部ぶち壊したくなる時がある。人に信頼されていることに、疲れてしまうのだ。積み上げてきた努力とか全部捨てて、高らかに「できない!」と叫びたくなる。できることは沢山あるのに、何も出来ないと思われたくなってしまう。そうやってインスタントに可愛がられたり甘やかされたりしたくなる時ってあるのだ。あぁ町娘。あなたにとっては今日がそうだったのね。さっきまで、ほんと完璧だったもんね。「楽しい夜になるように」って、友達として明るく振る舞うあなたはすごく美しかった。ずっと見ていたかった。ずっと美しい人だと思ってしまった私の視線も、町娘の荷物を増やしてしまっていたのかもしれない。良い人間でいたいけど、サボっちゃう時ってあるのだ。いつも正しくは生きられない。その証拠に、私たちはどれだけダメだとわかっていても、時々メイクしたまま寝てしまう。自分がそれをやってしまうと、ほんと許せなくって落ち込むけれど、いざ他人がそうなっているのを見ると、全然いいのよって気持ちになる。一日くらい、本意じゃないことをしたっていい。笑い声が大きくなるにつれてどんどんしんどそうな町娘はきっとその夜家で落ち込むんだろうけど、それってきついけど、いいよね。ずっとしっかりはしてられない。嫌いな自分を捨てるんじゃなく、嫌いな自分が出現するインターバルをできるだけ広く取るようにって考えた方が生きてくの楽かもなって、私はその夜考えを改めた。町娘ありがとう。明日の朝には、あんたが自分のできることをしっかり思い出して、少し自信を取り戻して「ダルいけどできちゃうしやるか〜」って、思いやりで重たくなった荷物をもう一度抱えてみれてたらいいなと思います。ちなみにしぽ兄はマジで無口。
TEXT/長井短
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