「婚外恋愛許可制」はやっぱり難しい?

稲田

離婚をめぐるカルチャー作品として、漫画『1122(いいふうふ)』(渡辺ペコ)を紹介します。この漫画に出てくる主人公の一子と旦那の音也は仲良しだけど、音也に迫られた時に一子が拒否したことをきっかけにセックスレスになる。二人は考えた末に「婚外恋愛許可制(セックスや恋愛を外注してOK)」の制度を導入するんだけど、音也が外につくった恋人に心まで夢中になってしまい、一子が複雑な気持ちを抱える…というストーリーなんです。

一方で、一子が女性用風俗を利用したことを知った音也は怒る。本当はお互い様なのに。これ、どう考えればいいんでしょうね?

宮崎

僕は「婚外恋愛許可制」を作ったことが破綻のきっかけになったと思います。なぜかというと、理性や知性で作った制度なら完璧だと思っていても、人間の弱さを前提にして作った制度じゃなきゃ必ず破綻するからです。一子たちの「婚外恋愛許可制」もある時までは完璧に機能していて、むしろ2人の仲は深まっていたけども、“嫉妬”という人間の弱い部分を見落としていました。

稲田

一子たちは、お互いのパートナーが別の人と明らかに親密になっていることが分かるから動揺するわけじゃないですか。だから、もし夫婦の関係をキープすることが最重要目的だとしたら、倫理的に良いかは別にして、黙って風俗を利用して外で解消するしか方法はないと僕は思うんですけど、いかがですか?

宮崎

それは「男も女も、どんな年齢であってもときめく生き物である」 という前提に成り立っていることですよね。僕は少なくとも、自分の性欲自体を諦めることで家庭を維持している人はいるだろうなと思うんです。

稲田

ただ、AV男優の森林原人さんが「“恋愛”と“セックス”と“夫婦関係”は別のものだから、3つとも同じ相手に求めるのは無理がある」ということを言っています。3つは分担すべき、つまり三権分立ですね。元来、恋愛をする相手、セックスをする相手、夫婦関係を営む相手は別々にもかかわらず、みんなそこには気づかないふりをして、寝た子を起こさないようにしている。そのうちの1つなり2つなりが欲望として消滅しているならそれで良いんですけど。例えば、「恋愛のときめきは求めないです」と言うのであれば、話は簡単です。

宮崎

そこは僕も求めないって言いたいですよ(笑)それに、“求めないでいるべきだ”と理性的には思いますけど、基本的に人間は弱い生き物ですから、そう言い切るのは難しいですね。

『最高の離婚』と『逃げ恥』を区役所の婚姻届の窓口に置くべき

稲田

あと森林さんの話で、僕はドラマ『最高の離婚』を思い出しました。このドラマは瑛太さんと尾野真千子さん主演の作品なんですけども、テレビシリーズの最終話でガッツ石松扮する結夏(尾野真千子)の父親が「男と女と、夫婦は違う。夫婦と、家族も違う」という名言を出すんですね。これは森林さんの“三権分立理論”と同じなんですよ。この『最高の離婚』と、あと『逃げるは恥だが役に立つ』のDVDは、区役所の婚姻届を出す窓口に置いて欲しい(笑)。すべてのカップルは結婚前に観るべき。

宮崎

『逃げ恥』は本当に興味深くて、あれだけ人気が出たことにも頷ける作品ですよね。

稲田

新垣結衣さん演じる高学歴ワーキングプアのみくりが、星野源演じるSEの平匡(ひらまさ)と契約結婚して、家事に対するお給料をもらいながら一緒に生活し始めるドラマなんですけど、僕はみくりっていう名前がすごく意味深だと思います。みくりは漢字で“御厨”。これは神に供える食物を調理する所という意味で、要は台所のこと。つまり名前が専業主婦を表してるんですよ。でも、彼女は途中から商店街活性化を目的に仕事をし始めますよね。それなのに理想論で空転して、地元の人とうまくいかなくなる。

宮崎

みくりは専業主婦をある種の職業と捉えて、金銭価値に換算してお給料をもらうという契約を平匡と結ぶけど、結局はそこでは満たされない何かがあった、ということなんでしょうか。でも、それはみくりの問題というより、専業主婦の仕事に価値を感じることが難しい社会環境や意識の問題が背景にあると思います。「自分でそう思った」と個人が感じていても、実は「外圧」によってそう感じさせられているという一面もありますから。

稲田

『レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで』という2008年の“夫婦鬱(ふうふうつ)映画”があって、あ、“夫婦鬱映画”というのは僕が勝手に作ったジャンルですが(笑)、理想を持って郊外住宅地に引っ越してきた若い夫婦が崩壊していく姿を2時間かけて描いているサディステックな作品です(笑)。女性の方が自己実現のために演劇を始めて、それが無残にも大失敗に終わるんですけど、そこから“主婦として生きるしかない”と追い込まれていき、夫婦仲が崩壊します。何十年も前の時代設定なのに、そこからみくりの時代まで変わっていない。外に自己実現ができる場所を設けないと、社会も本人もやっていけないという気持ちになってしまうんですよね。

――質疑応答を挟み、稲田さんは「皆さんにとっての『バツイチ会』を作って、ぜひタブーなき議論と発言をして欲しい」という言葉で締めくくり、イベントは終了しました。

今回、特に印象に残った言葉は「離婚は他人事ではない」という稲田さんの言葉。もしかしたらAM世代のみなさんにとって、離婚は身近なものではないかもしれません。しかし、イベントの途中には、結婚したいと思った相手が離婚経験者である可能性は非常に高いという話がありました。

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