文系くんへの気持ちの変化
――SPA!のインタビューで、途中から文系くんのことを気持ち悪くなった、ゆるふわちゃんには愛情が持てるようになったとおっしゃっていましたが、そこには何か峰さん自身の心境の変化があったんでしょうか?
- 峰
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私は彼氏と別れると元彼は全員、全部が気持ち悪いんですよ。なので、きっかけとしては私が文系くんっぽい男の子と別れた時に、文系くんのことが気持ち悪くなってしまい…(笑)
でもそれは私のプライベートな話なので、急に文系くんをキモキャラにするのはおかしな話だと思ったんです。
ただ、文系くんに“キモフィルター”をかけたわけではなく、それまでかかっていた“ときめきフィルター”が外れた文系くんが出てきたら気持ち悪かったみたいな…だから、もともと文系くんが気持ち悪かったんですよ!
- 島本
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私も別れたら気持ち悪くなります!
特に忘れた頃に連絡してくる系の人とか。よくあの別れ方で、もう一度イケると思ったな、と。
最終巻にあった「一日中同じパンツをはいていても別に汚いなんて思わないのに、一度完全に脱いでしまったら、もう一度はくのは不潔な行為に思える」って表現は秀逸ですね。
- 峰
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なんでそうなるんでしょうね。
たまに、「元彼は前に好きだった人だから嫌いにはならない」って人がいると、すっげぇムカつくんですよね(笑)
- 島本
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じゃあなんで別れたんだっていう(笑)でも、思えばたしかに、付き合っている時でも端々に“この人ちょっと嫌だな”と思うところはあって、別れたらそれが外れてフラットになるだけで、最初からそういう人だといえば、そういう人だったのかもしれないですね。恋愛ってやっぱり恐ろしいなと。
ゆるふわちゃんが崖っぷちにいること
- 峰
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だんだんとゆるふわちゃんに愛情が湧いてきたきっかけも、また文系くんみたいな男の子と付き合っていた時の話になりますけど、やっぱり文系くんってゆるふわちゃんみたいな女が好きなんですよね。
それを細かいところで感じることがあって、そうするとイラッとするじゃないですか。
ただ、20代の時はそうでも、私がバリバリの30代になった時には、周りに「綺麗系の30代女性」が好きな人が増えて、自分の餌場を荒らされなくなった。それでゆるふわちゃんがムカつかなくなったかな。
- 島本
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文系くんと付き合いだしてから、ゆるふわちゃんがメンヘラ化するあたりの展開なんかは絶対、男性の中にはないヒロイン像で、峰さんだから描けるものだと思いました。かなりリアルですよね。
- 峰
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最初にゆるふわちゃんを、34歳の“童顔で押していこ☆”みたいなキャラに決めた時は、それがどれくらい崖っぷちな行為か分かっていなかったんです。
でも自分の年齢が近づいてくると、同年代でそこから抜け出せなくなっている子の存在に気づいてしまう…!
そういう子は34歳でニーハイソックスを履いていたりするんです。だって自分が今から綺麗系の格好をしても、顔が綺麗系の女に勝てないと嫌じゃないですか。
といっても、ゆるふわ界でも若い子には勝てない…怖い話ですよ。
- 島本
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年齢によってどうシフトしていくかは重要な問題ですよね。
私自身、デビューが早く、今まで思春期の女の子の目線で恋愛を書いていたのに結婚して子供が産まれてから、その目線がなくなってしまったと感じる瞬間があって…。
これは大人の女性路線にシフトチェンジしないと、新しいものは書けないし、新規の読者も入ってこない。これはまずい!と思った時期が30代前半にありました。
それで自覚的に官能物を書いてみたり、結婚や不倫や女というテーマに挑戦したりして。そしたら、苦手だと思っていた女のリアルを書くのが意外にもどんどん楽しくなって…。
――島本さんもそんな時期があったのですね。
- 島本
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そうですね、あとは、二十代くらいまでの頃って、公私ともに若いっていうだけで無意識に男の人に忖度したり、言いたいことも言えなかったな、と。
それにようやく気づき始めたのが30代。当事者じゃなくなったことで我に返り、フェミニズム化して、怖いと言われるようになる(笑)
『アラサーちゃん』でもそのあたりが押さえられていて、年齢的にドンピシャだなと。
峰さんの展開の作り方
――最終巻の終わり方は悩まれましたか?
- 峰
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最初は、なんだかんだ言って最後は文系くんと付き合う…と思っていたんですけど、そうするとゆるふわちゃんはオラオラくんと交際することになるの?じゃあついでに、サバサバちゃんと大衆くんでもくっつけちゃう?とか、それってよく長く続いた少女漫画の終わり方にありがちじゃないですか。
それでアラサーちゃんの子供とゆるふわちゃんの子供が出会って恋が始まる…みたいな(笑)
それはないし、嫌だなっていうのがあって。しかも、文系くんが気持ち悪くなってしまったのも挽回できないから、文系くんは気持ち悪いけど実は良いところもあったから付き合って歩んで行く…みたいにはできないと思い、じゃあどうしようってなった時に、消去法であの終わり方になったっていう感じですね。
――これもSPA!インタビューの中で、「『妊娠してるかも?』と思ったら勘違い」というのと、「処女喪失寸前のいいところでやめました」という流れはイヤだったので、やるなら絶対に妊娠するし、やるなら処女膜を破壊する!とおっしゃっていましたよね。
- 峰
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いつも、この展開嫌だ!みたいなところから始まって、その展開をしないためにはどうすればいいんだろうって感じです。
例えば下ネタは書くけど、みんな一定のラインは守っていて、決して“マンカス”のことは書かないんですよ。
それも嫌だなって思っていたので、あまりみんなが触れない部分も書こうみたいな。エロを扱う作品の「エロです、これはピンクな18禁ですよ」っていうノリがすごく嫌だったんですよね。
普通のネタがある中で、普通の温度としてエロを入れていきたいなって。その気持ちが強いので、新しい連載で『AV女優ちゃん』っていうAVの話を書いているんですけど、私的には無味無臭で書いていたものが、感覚が麻痺していることに気づき…。これはコンビニで売ってもらえない可能性があるかもって(笑)
だから男性器を全部、可愛いカワウソくんに書き換えました。
- 島本
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カワウソに変えるのって、すごいアイデアだなと思いました。でも逆に生々しい感じがありますね(笑)
対談の続きは、近日公開!後半では、島本さんの最新刊『夜 は お し ま い』について語っていただきます。
『アラサーちゃん無修正』最終巻&『夜はおしまい』
『アラサーちゃん無修正7』(峰なゆか/扶桑社)、ぜひ最終話を見届けてください!
『夜はおしまい』(島本理生/講談社)、直木賞作家、島本理生さんの最新作が発売中です! 深い闇から光をつかもうとする女性たちのお話。
TEXT/苫とり子
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