「心の輪郭を教えてくれる恋は芸術になる」溺れるナイフの山戸結希監督×佐久間宣行トークイベント

Maybe! 小学館 山戸結希 佐久間宣行 左:佐久間宣行さん、中央:堀越千史さん、右:山戸結希さん

夢を叶える恋がある?

山戸「恋に落ちる」とか「心を奪われる」っていう状態になっていると夢って叶わなくて。 自分の心の輪郭を知ると夢って叶うんだなって思ってて。この恋愛があったからこの芸術が生まれたなっていう恋があって。どんな恋かというと、自分の心が自分の心のままでその人が自分の心に触ると「あ、そんなところに私の心のかたちあったんだね」って心の輪郭を教えてくれるような恋があると思うんですね。そうすると必ず芸術になるので。

 映画監督の山戸結希さんがそう語ったのは8月10日に行われた雑誌『Maybe!』創刊記念イベント「一流クリエイターは恋愛でつくられる!?」の終盤でのこと。恋愛の経験と夢の成就の関係性の本質を突いた洞察に、会場全体がその日一番真剣に耳を傾けたように感じられました。
そのクライマックスに至るまでのトークの模様をAM編集部がレポートします。今恋に悩んでいるAM読者全員に必ず役立つ、会場からの恋愛相談に対する二人の回答も掲載いたしました。ぜひご一読ください!

映画『溺れるナイフ』についての山戸監督インタビューはこちらから!

登壇者プロフィール

山戸結希(映画監督)Maybe!前身の『This!』「あこがれの仕事につく100人の図鑑」企画に登場。『Maybe!』では「君がポカリを飲む頃は」と題したポカリスエットの企画を書き下ろし。2014年に『5つ数えれば君の夢』が渋谷シネマライズの監督最年少記録で公開され、『おとぎ話みたい』がテアトル新宿のレイトショー実写動員を13年ぶりに更新。2015年、日本映画プロフェッショナル大賞新人賞を受賞。11月5日に小松菜奈・菅田将暉主演の最新作『溺れるナイフ』公開予定。

佐久間宣行(テレビ東京プロデューサー)Maybe!前身の『This!』「あこがれの仕事につく100人の図鑑」企画に登場。大ヒット番組『ゴッドタン』のほか、既に4作を重ねている『ウレロ☆未確認少女』シリーズ、コントドラマ『SICKS〜みんながみんな、何かの病気〜』、BSジャパン『文筆系トークバラエティ ご本、出しときますね』など数々の話題作を手がける。

10代の恋愛の影響は現在まで?

 司会から「創作に影響している恋愛について教えてください」と振られて話は10代のときの恋愛事情に。その影響は現在まで続いているのだとか。

佐久間:いま『ゴッドタン』って番組をずっとやってるんですけど、ディレクターはみんな結婚してるんだけど、だいたいいつもゴシップ記事とか読んで、かわいい女とやってるイケメンの悪口を30分くらい言ってから、会議を始めるんです。そうするとすごいやる気が出て(笑) 畜生、○○、もててんなぁーって言いながらやってる。その共学に対する怒りみたいなものが高校時代に育まれていて。男子校的なルサンチマンが、お笑い好きとかそういうところに、僕を向けたのかなって思いますけどね。

 一方、10代のときにはずっと恋愛してたという山戸さん。本や映画、音楽といったカルチャーよりも現在に影響を及ぼしているのが恋愛で、それを経た後では誰と出会っても余暇だと感じるようになったのだとか。

佐久間:誰と出会っても余暇だなって思うくらい、10代は恋愛してたの?

山戸:言葉にすると「どうした!?」って感じですけど、女性の真実はそうなんじゃないでしょうか。愛と夢という選択肢が立つ前に、デフォルトとして、恋愛に対して被支配的な状況に置かれているというのか。恋は、何も与えられなかった地方の女子中高生にとっての、唯一のエンターテイメントですから。今はネットが普及してるかもしれないけど、でもネットだって結局ポルノとか社会的なモテとかにたどり着いちゃうから。ただ与えられた自分の体だけでどこまでいけるか、自分のすごく限定的な身体でどこまでいけるかっていうゲームしか地方の女子にはエンタメとしてなくって、恋愛するしかないという感じだったので。やっぱりそこに対して、マジで恋愛よりも面白いものがあるって射光させたいですけどね。それは最初から芸術の形だと届かないから、きっと、恋に一番良く似た芸術みたいなものになると思うんです。映画『溺れるナイフ』が、本当にそういうふうに届いて欲しいですね。

 その『溺れるナイフ』をめぐっては山戸さんと佐久間さんの間でおかしなやり取りもあった様子。

佐久間:僕は山戸監督の『溺れるナイフ』を見たばっかりなので、それがすごいって話を今日はしたくて。みなさん、まだでしょ?見たほうがいいですよ絶対。映画評論家の宇野さんって方もツイートしてたんですけど、つまんないカットが一個もないんですよ。ほんとに素晴らしくって。菅田さんも小松さんもすごいけど、僕はジャニーズウエストの重岡君とたまに仕事をしてたんですけど、重岡君があんなにすごいと思わなかった。っていうか、女の子だったらずきゅんってきちゃうようなキスシーンとかが、すごくいいっていうのがあってですね。僕、試写見終わったあと、山戸さんに感想送ろうとしたんですけど、いろいろ、メールでは伝えられないなと思って。豪雨だったんですけど、「見終わったら雨が上がってました」っていうわけのわからないポエムみたいなの送ってて。

会場(爆笑)

佐久間:そう送っちゃったくらい、いろんなことを考える映画で、素晴らしいんですよ、ほんとに。

山戸:忘れがたい思い出ですね、「あ、佐久間さんからメール来てる」と思ったら、「見終わったら豪雨が快晴でした」って内容で (笑) 映画に触れてくれないのかな?って思いました(笑)今まで、乃木坂46さんなど女子のアイドルを撮らせていただいてきたのですが、ペルソナとその個人の身体性をめぐる問いがずっとあって、もし、男子のアイドルを撮るとしたら、こういう方法論に変換して適応できるのになって思っていました。その実験の記念すべき第一弾として、純朴な重岡君にぶち込んでしまいましたね。

 新作の『溺れるナイフ』の話をきっかけに、トークは実体験と作品づくりの関係についても及ぶことに。

佐久間:監督は作風に、実体験はでるんですか?溺れるナイフは原作があるけど、今まで撮ったものとか。

山戸フィクションの中でしか真実は物語れないのだと思いますね。現実の言葉で、今個々で、「今三年間付き合ってる彼氏がいて」って言ったときに、言葉にしちゃうと何かが決定的にすれ違ってしまう。世界でたった一人の人間を見つめながら、この宇宙でたった一回の恋だと思って生きた時間は、フィクションの中でだけきらめくことができるというのでしょうか。

佐久間:『おとぎ話みたい』みたいな映画って、どうやって着想するんですか?

山戸:今回Maybe!で恋愛っていうテーマをいただいて考えたことなのですが、今まで自分が恋愛映画だけを撮っているっていう自覚が全くなかったですね。ただ事実として、恋愛映画だけを撮って来ているんですけど、「ラブを撮ろう」と思って撮ってるわけじゃなくて。若い10代の肉体の実存にかかわる問題として、何が決定的に響いてくるのかを考えたときに、女の子の10代の人生を揺るがすものが恋でしかないっていうのがあったんでしょうね。結果、若い女の子を撮ろうとしたときに決定的にいつも恋が絡んできていたっていう感じですね。『おとぎ話みたい』もそうだったのかな。あらすじにしちゃうと「若い女の子が先生に恋をする話」っていうめちゃくちゃ定型的で、あちこちにあるような愚かな恋愛とか憧れでしかないんですけど、ただその中にある内的な一回性の真実として、10代の恋愛を撮りたいっていうのがあったんです。