人生(特に仕事)における成功の秘訣

もしかしたら、『軽蔑』において夫婦のすれ違いの決定的な要因が描かれないことに不満を覚える人もいるかもしれない。だけど実際の人生はだいたいこんな感じだし、人生における成功や失敗の要因が具体的にどこにあったのかを教えてくれるほど、神様も仏様も暇ではない。私たちの「もしもあのとき」はだいたい思い込みで、決定的な要因や正しい選択なんかは存在せず、毎日の、それこそひとつひとつは塵のように些末なことの積み重ねで、人生はできている。私はもともとそういう考えなんだけど、『軽蔑』を読んでこの考えがより一層強くなった。

話は夫婦や恋人など人間関係の問題に留まらない。『軽蔑』では主人公が仕事関係の知人に「人生(特に仕事)における成功の秘訣」を教わるシーンがあり、そこで主人公は、知人にこう説かれるのだ。

「それはだね、駅の切符売り場の窓口の前で行列にしたがうように、人生でも順番にしたがうことだ。根気をもち、列を変えない限り、われわれの順番は必ずやってくる(p.375)」。

妊娠や病気などはこの通りってわけにはいかないけど、仕事や自分の人生において果たさなければいけないミッションに関しては、この知人の教える秘訣がけっこう当てはまると思う。「もしもあのとき」あっちを選んでいたら、今ごろ成功していたかもしれない。そういうのってだいたい幻想で、何かを掴み取りたいなら、できることは毎日ただ淡々と積み上げながら「待つ」ことだけだ。

というわけで『軽蔑』は、恋愛においても仕事においても、「もしもあのとき」と人生の分岐点を思い浮かべてハァーっとため息をつきたくなっちゃったときに、ぜひ手にとってみてもらいたい。悲しい物語が、そんな考えを戒めて、人生の儚さと、美しさを教えてくれるので。

Text/チェコ好き(和田真里奈)

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