こんばんは、今回も名前通りの真夜中にこれを書いています。
コロナ禍の中で始まったこの連載も13回目を迎えました。第1回は旅を感じる映画を集めましたが、覚えている方はいらっしゃるでしょうか。
年の瀬になって、ウィルスを巡る状況は一層深刻になっているように思われます。もちろんそれはここで語ることではないにしても、考え方感じ方に大なり小なりの変化が起きているのも確かです。
「旅」って、もうコロナ以前とは違う意味を持ったものになっているのかも。
今年の最後は砂漠を舞台にした、人生を動かす旅の映画を二つご紹介します。
一緒に進むように楽しむ女二人旅
英語圏には人名を冠したタイトルの作品がかなり多い印象があります。
特に「〇〇&〇〇」のような二人の人物をタイトルロールにした映画は邦画にはなかなかありません。
もちろんありますけどね。ほら……『愛と誠』とか……『次郎長三国志第三部 次郎長と石松』とか……まぁ私の偏った記憶はさておき。
『テルマ&ルイーズ』は、このタイトルしかつけようがなく訳しようもない、そんな映画。
互いを親友とする二人の女性が苦境つづきの旅の果てに本当の自分を見出していく物語です。
横暴で傲慢な夫の顔色を伺いながら暮らすナイーブな専業主婦のテルマ。親友でウェイトレスのルイーズは何でもズバズバ言うタイプで、いつもタバコをプカプカ。地方巡業で留守がちの恋人とは結婚の話も出ないままだらだらと付き合っています。
正反対なようで気が合う二人は息抜きの1泊旅行に出かけた先で事件を起こし、昨日までの人生からは想像もできなかった逃亡の身に……。
その年のアカデミー賞で脚本賞を受賞した作品ですが、過去の受賞作の中でも突出した傑作の一つです。キゼデミー賞だったら(?)間違いなく歴代3本に入ります!
少しずつ、長い間、あらゆるかたちで抑圧されてきた女たちが遂に魂の自由を求めて反旗を翻す。非常にハードな作品で、「フェミニズム映画」の代表格と言われていますし、実際そうです。
でもとにかくすごいのは公開から四半世紀以上を経てなお、まったく色褪せていないどころか、輝きを増していること。
「ポリコレ」とか「価値観をアップデート」なんて全然言われていない時代の作品だけど、説教くさいところもないしぶっとい芯が一本通っているし、分断を煽るものにもなっていない。
夢見がちなお嬢さん気質ですぐに人を信用しすぐにパニックになるテルマと、常にクールでタフで決断力のあるルイーズ。そんな二人もお互いが命綱という過酷な状況になると自分も相手も知らない面が見え始めたり、ときどきシーソーのように力関係が入れ替わったり。
観ていてついつい「あるあるだ……」と思ったり、ぐっと感情移入してしまう瞬間があります。
これはもう、私たちも一緒に進む旅じゃないですか。
良いシーンばかりなのですが、特にはじめはたった1泊の旅行に行くのさえ「絶対反対されるから……」と夫に言い出せなかったテルマが、道中自宅に電話したときには「GO FUCK YOURSELF(くたばって!)」とガチャ切りするところとか、成長を感じるとともにくすっとしてしまう一幕です。
後半には印象的な挿入曲『ザ・バラッド・オブ・ルーシー・ジョーダン』が流れます。
「37歳になって彼女は気づく
風に髪をなびかせスポーツカーでパリを駆け抜ける
そんな経験をとうとうしてこなかったことに」
テルマとルイーズにとっても、これは諦めてきた可能性に気付く、そしてそれを取り戻す旅なのでした。
彼女たちを取り巻く男性たちも味わい深いキャラクターばかりです。
テルマの夫で“ブタ野郎”のダリルや、対照的に恋人ルイーズのため何も聞かず手を差し伸べようとするジミー。
事件を起こした二人を追う立場の刑事・ハルも、悪化していく状況から救うべく彼女たちに寄り添おうとします。
更に実はブラッド・ピットの出世作でもある本作、出番は少ないのですがブラピの全部を煮詰めたジャムみたいな超魅力的な役どころです。
それでもこの映画で一番ロマンティックなのはヒロイン二人の関係性でしょう。
「この先何が起きるとしても、一緒に来て本当によかった」
ドラマいっぱいで、刹那的で、まさにボニーとクライドのような二人の旅。
女同士の強い絆をただ描いてくれる映画は実はまだ少ないのだなあと気づかされます。
最後には衝撃的な結末が待っていますが、生涯忘れられない感動が胸に残る一本。
恋愛は本能だけど友情は理性だとよく言われますよね。だからこそ友情は恋愛よりも強固なものだと。
それも真実だと思うのですが、友情にもやっぱり言語化できない「この人じゃなきゃ駄目だ」って感覚はある。
もしかしたら、たった一人でも変化も逸脱も含めてまるごと預けられる親友がいれば、誰でも無敵になれるのかもしれません。
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