ひとりで砂漠に立ったら何を思う?

ジョーン・スカダモアは、本当はどんな人間であったのか? ネタバレは避けたいし、何よりもそれは読んだ人自身が感じ考えるべき話なので、ここで以降の物語について詳しく語ることはしない。

結末云々よりも、私が『春にして君を離れ』を好きなのは、ジョーンが自分自身に出会う場所が「ひとり旅の途上」であるということだ。あらすじを説明したとおり、ジョーンは20代の婚活迷走女子でもなければ、自分探し中の大学生でもない。1男2女を夫とともに育て上げた、立派なマダムである。だけど、そんな聡明で心優しいマダムですら、ひとたび日常を離れれば、不安になる。孤独の中で、自分という人間が暴かれていく。ジョーンは異国の土地の砂漠で、自分自身が目を背けていた「真の姿」に出会うのだ。

誰かのために生きることは美しい。だけど、それによって自分が消えてしまうわけではない。「孤独な私」は、どんな人生を選択しても陰のように付きまとい、決してこの「私」を離さない。『春にして君を離れ』は、ある人にとっては、思わず投げ捨てたくなるような意地悪な小説になるかもしれない。でもある人にとっては、優しくて切なくて、心を少しだけ鎮めてくれる小説になるだろう。

あなたがどちら派だったかは、ぜひ読んでみて、感想を聞かせてほしい。

Text/チェコ好き(和田真里奈)

初の書籍化!

チェコ好き(和田 真里奈) さんの連載が書籍化されました!
『寂しくもないし、孤独でもないけれど、じゃあこの心のモヤモヤは何だと言うのか -女の人生をナナメ上から見つめるブックガイド-』は、書き下ろしも収録されて読み応えたっぷり。なんだかちょっともやっとする…そんなときのヒントがきっとあるはすです。