「定番化したワイン」と「クラフトビール人気」が象徴するもの

「新宿三丁目」と「奥渋谷」には、共通点がある。それはどちらも発展のきっかけがワインと関係しているということだ。新宿三丁目の今のような発展は、この界隈の一大勢力として多数の店舗を展開するワインバーのマルゴグループ(*9)の存在が大きかった。同じように、奥渋谷の発展も、この5年で増えた狭いお店に樽が並ぶようなバル群が支えている。2008年に開業した、神山町の奥にひっそりたたずむ「アヒルストア」(*10)は、ワインにこだわり、立ち飲みスタイル、広くはない店舗という東京のバルのスタイルを確立し、バルブームの中心となった存在。ワインが両地域の発展のキーになっているのだ。

(*9)ワインバーのマルゴグループ:「気軽にワインも料理も楽しめる」
「お一人の方も、グループでも、いつでも気軽に立ち寄れるバー、それがMARUGOです」(同社公式ホームページより)

(*10)アヒルストア:自然派ワインと自家製パンの提供で知られるお店。店主の齊藤輝彦さんは、雑誌『GINZA』(マガジンハウス)にてワインに関する連載も。大人気店なのでなかなか訪問できないのだけれど、いつも記事を読んでいるために勝手に心のなかで行ったつもりになっている感あり。

日本フードサービス協会の市場動向調査の結果を見ると「パブレストラン/居酒屋」の業績は、6年連続で前年を下回る低迷が続く。だが、その一方で、2012年以降、ワインの消費量は、ボジョレーヌーボーが流行ったバブル期、ポリフェノールが話題になった健康ブームの1998年を超える量にふくれあがり、空前のワインブームでもあるのだという。そして、ここに来てクラフトビール(*11)も大ブレイク中。クラフトビールやワインにこだわりのある店が多い場所という条件から見ても「新宿三丁目」「奥渋谷」といった街は、ちゃんとマッチしているのだ。

(*11)クラフトビール:小規模なビール醸造所でビール職人が造るビールのこと。ビール職人が精魂込めて造り出す高品質なビールを「手工芸品(Craft)」に例えて、クラフトビールと呼ぶのだそう。

――定番化したワイン、人気上昇中のクラフトビールが示す東京のおひとりさまの今の“気分”とは? 後編では、ほかのランキング上位のスポットにも触れながら考察を深めていきます。どうぞ、お楽しみに!

Text/速水健朗

※2015年9月4日に「SOLO」で掲載しました