自己主張すると何かと面倒が多い!?

――自分をアピールしろと言われがちな社会ですけど、この本の一章分を割かれていた「自己主張しない」というメッセージは新鮮でした。
ただ、現実的にはまったく自己主張しないわけにはいかないとも感じていて。蛭子さんのこれまでのご経験のなかから、最低限ここだけは周りに主張した方がいいということはありますか?

蛭子

俺の思う「自己主張しない」というのは、集団がいたときに自分がそこのトップになるんじゃなくて、隅の目立たないところにいた方がいいよってことなんですね。トップに立つと人の面倒を見たりする責任が出てきます。そんな立場にはならない方が自由に心を持っていられるということなんです。

 自己主張は自分の心のなかにこそ持っているべきで、それを口に出して言わない方がいいと思うんですよ。自分にただ言い聞かせるだけで。そうしたら人と喧嘩しなくて済むし。自己主張を口に出していうと、ほかの人の自己主張と対立してしまうかもしれないから。だからわざわざ対立しないでこっそりやっちゃえばいいんですよ。

――仕事や人間関係などにおいては、お互い納得するまでぶつかったり、言い合ったりするべきだと言われたりもします。

蛭子

でも言い合ったところで、たいした問題じゃないかもしれない。そういう場合は、意見があったとしても向こうがそう言っているならその場は降りる。相手を立たせてあげるということも大事ですよ。

――蛭子さん自身、そういう風にした方が最終的にうまく行くことが多かったんですね。

蛭子

そうですね、やっぱり相手にゆだねることで自分が責任者にならなくて済むというのが大きいです(笑)。

――(笑)。確かに、むやみに敵をつくらないのもいいなと思います。ただ、そうすると自分のやりたいことが最終的にできないということはありませんか?

蛭子

自分のやりたいことができるかできないかは、そのやりたいことに他人が関わる程度によると思います。自分がどうしてもやりたいことで他人が関わってくる話ならば、やっぱり相手をしっかり説得する必要があります。ただ、説得は自己主張とは違います。

 必ず相手も面白いと思えるようなことを提供するのはもちろんだし、協力をお願いする相手に対して自分を落として話をできるかどうか、それが相手とうまくいく方法だと思うんですよ。

――やはりどんな場合でも、相手を尊重する姿勢が大事なんですね。

蛭子

そうです。でも大体は説得しなくてもいいんですよ。たとえば俺が競艇に行きたくて、マネージャーが競馬に行きたいとする。それで2人で遊びに行こうとして、俺が競艇に行きましょうと言ったとする。それで俺が無理やりマネージャーを競艇に連れて行くんじゃなくて、別々に行けばいい。俺は競艇に行くし、マネージャーは競馬に行く。

――すごくシンプルです。

蛭子

下手に一緒に行動したり、協力し合うってことをがんばりすぎたりしないで、無理やりに引っぱっていかない、お互い好きなようにするのが一番いいんですよ。マネージャーの立場だったら「蛭子さんが競艇に行きたいんなら、ぼくも競艇に行きますよ」って言うかもしれないけど……。

マネージャー氏

言いますよ(笑)。

蛭子

アハハ!(笑) でも、自分の好きなところに行きなよって思います。まあ自分が上の立場だと相手があわせてくるかもしれないけど、そうだとしてもできるだけ平等に遊ぶということを心がけてます。自己主張を強くして、本当は嫌だと思っている人を無理やり従わせるのは好きじゃないし何にも楽しくない。自分自身が自己主張をするかどうかよりも、お互いに自由を楽しむことの方が大切じゃないですか。俺はその方が、長い目で見てうまく進むと思うけどなぁ。

※2015年6月16日に「SOLO」で掲載しました