海外旅行に行くというと、くれぐれも危険に注意しろと心配されることがあるけれど、そんな物騒な国にはあまり行くことがないので、さしてヤバい目にあったことはありません。クアラルンプールの空港で、チェックインに遅れて飛行機に乗りそこねて急遽もう一泊することになったり、バンコクの路上で犬に噛まれたり、ヨハネスブルグのスラム地区で向こうから走ってきた男性に突然、抱きつかれたりくらいの、ヒヤッとした体験はあるけれど、物を盗まれたこともなければ強姦されたこともないのは、一応、それなりには常時、危険レーザーを張り巡らしているからだと思います。が、今回のタイではヒヤッとする出来事に遭遇しました。
ホテルの中庭でチルっていたら…
パタヤでリゾート&夜遊びを楽しんで、バンコクへと戻ってきた初日のことです。その日の宿はカオサン通りのど真ん中に位置するひとり一泊2000円もしない安宿を取りました。
かつてはバックパッカーの聖地とも呼ばれていたカオサンですが、いまはすっかりパリピピリピリピッピリピの街へと様変わりしております。昼間こそ静かなものの、夕方ともなるとビアガーデンよろしく路上に椅子とテーブルが置かれ、バケツに入った名物の『バケツカクテル』を飲んだり、風船の中に入った笑気ガスを吸ったりの大乱痴気騒ぎ。どの店も大爆音で音楽をかけ、踊ったり騒いだり、ストリート全体が大混雑のクラブ状態。その様子の動画をXにアップしたところ、かつて30年前にカオサンに沈没していたという男性が「いまのカオサン、ヤベーすね」とリプするくらいの変わりっぷりで、「カオサンなんて不便だし、タイかぶれの貧乏人ばかりだし、ご飯も欧米人向けでさして美味しくもないし」と思っている人は、ちょっくら覗いてみてほしい。
その夜は、メインのカオサン通りはカオスすぎるということで、寺裏と呼ばれる裏通りのカフェで女友達とともにカクテルなどを嗜んだ後、おとなしくホテルへと戻りました。が、せっかくの南国の夜をもう少し楽しもうと、ホテルのエントランス前の、中庭のようなスペースのベンチに座り、コンビニで買ったビールを飲んでチルることにしました。
わたしたちの向かい側には、女ふたり男ひとりの観光客らしきラテン系のグループが、やはりビールを飲みつつ穏やかに談笑。わたしたちの並び、5メートルくらいは離れた花壇のふちには、グループとは別で上半身裸の短パン姿の欧米人の若い男性が腰をかけていました。
かなりのイケメンなのだけど変!
その男性、かなりのイケメンなのですが右腕にギブスをはめていて、右目の下には絆創膏を張っている。喧嘩でもしたのか、それとも車にでもぶつかったのか。旅先で怪我なんてお気の毒に……なんて思っていたところ、立ち上がった男性は3人組の男女のテーブルへと近づいていった、と思ったら手にバケツカクテルを受け取って、わたしたちのところに寄ってきて、話しかけてきた。
「Justnow go my room!」。部屋に来いといっている? わたしの口からとっさに出た言葉は「Why?」でした。条件反射で心の声が漏れた!
が、俺の部屋に来いといわれて「なんで?」って返すのって割と塩対応ですよね。もちろんナンパなんて塩対応でいいという人もいるだろうし、かつてのわたしだって、海外で声を掛けてきた日本人男子に「海外まで遊びきて日本人と飲みたくないんでぇ~」と感じ悪く返して女友達に「ひどい……」といわれたことがあるけれど、40歳も半ばを過ぎたいまは「え、わたしに声掛けてくれるんすか!?」と驚き&感謝の気持ちもあって、そこまで塩な態度を取ることはない。が、「どこから来たの?」とか「日本人?」とかそういう前置きなしに「部屋に来い」とかいわれたら「なんで?」ってなるじゃないですか。その気持ちがそのまんま口から出てしまったわけです。
ヤベ、逆上されたらどうしよう……という心配をよそに男はあっさりと引き下がり、ホテルの中へと消えていった。ほっとしつつ「酔っ払い?」「マリファナでキマってる?(※タイではマリファナが解禁中)」などと女友達と首を傾げていたところ、男は再び戻ってきて、今度はわたしたちの真隣に腰を下ろした。
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