以前、バイトしていた出版社の社員や出入りのライターの人たちと食事をしながら、「どんなバイトをしたことがあるか」という世間話で盛り上がったことがありました。「大泉さんは相当に面白そうなバイトしたことがありそうだよね」と振られたので、「わたしはおもしろバイトジャンケンはめちゃ強いですよ! 女の子とレズっている姿を見せるバイトとか、プロレスラーのやってるスナックで野球拳するバイトとか、しりあがり寿にボディペイントされるバイトとか、六本木の鍵を持ってないと入れない会員制のバーで蛇と絡むバイトとか!」といったら「斜め上すぎる」とその場にいた誰もが言葉を継げなくなってしまったことがありました。キャハッ! 強すぎた? とテヘペロしていたところ、そこにいたひとりが「俺は……パン工場でバイトをしていたことがあるんだけど……」とおずおずと語りだした。
おお、パン工場で勝負するか!? 鳥肌実なの? と思ったら「俺が配属されていたのは、ホットドックを作るレーンで、ベルトコンベアーで運ばれてくるパンの切れ目に、機械がソーセージを乗せるのを監視してるんだけど、たまに外れちゃうソーセージを拾って乗せるバイト」と言われて、完全に負けたと思ったのでした。機械のミスをフォローするって虚無感がすごい。
楽しくて出会いがありそうな普通のバイト
なんてことを思い出したのは、友達の娘ちゃんが高校進学を機にバイトを始めたという話を聞いたからで、もちろんレズでも野球拳でもしりあがりでも蛇でもパン工場でもなく、普通の飲食店なわけですが、バイト仲間にイケメンがいるとか賄が出てそれが美味しいとか制服が可愛いとか、そういう話を聞いてちょっと羨ましくなった。考えてみたら、わたしはバイトを選ぶにあたり、そういう「出会いがありそう」とか「楽しそう」とか「かわいい制服が来たい」という観点で選んだことがないではないか!
高校時代は、「バイトなんてしたら店長に手を出される」という謎の主張で父親にバイトを禁止され、なんとか説得した結果、顔見知りのやっている近所の蕎麦屋ならと許可が出たので、それをアリバイにして裏ではデートクラブに通い詰めての援助交際に勤しんでいたし、大学時代は時給がそこそこに高いというだけでキャバクラに、その後、脱ぐようになってからは声を掛けてもらったエロ仕事を受けて稼いでいたので、いわゆる「自分で選んだ普通のバイト」をしたことがない……そういえば、イケメンが揃っている近所の魚屋がバイト募集の求人を出しているではないか! これはバイトの面接を受けるしか!!!
Text/大泉りか