『おまえを選ぶという選択をしていれば、
もっと楽しい人生があったかもしれないのかな』
私の上で目に涙をためて話すオトコ。
彼は身体をふるわせ全身から、
「愛している」
「ひとつになりたい」
「これ以上進むのが怖い」
を繰り返し発している。
3時間前・・・
とある恵比須のバーにて。
『おれ、嫁とうまくいってないんだよね』
『どうしたん?』
『“結婚は99%が生活”だと分かってなかったよ』
『“結婚は生活”か。それよく聞くわ。残りの1%って何?』
『ご飯食べに行ったり、遊びにいったり、楽しいこと。
それ以外の99%は生活だよ。』
『そういう相手の生活の部分って、
結婚する前にわかることじゃないの?』
『きっとわかるんだけど、その部分の合う合わないを考えずに、
好きって気持ちだけで結婚しちゃったな』
『・・・。離婚しちゃえば?』
『・・・うん。実はちょっと考えてる。』
『あっ、でも子どものことはちゃんと考えなね』
『うん・・・。それは大きな問題だよ』
私は気づいている。
彼はもう決心しているということを。
ただ誰かに背中をおしてほしかったのだ。
バーを出たとき、彼が思いつめた顔で言う。
『ねぇ、手、つないで、いい?』
35歳のオトコが笑うことなく真剣に。
4年前、何度も何度もつないだ仲なのに。
『時間、もうちょっと大丈夫?』
『うん・・・。でも絶対に襲わないでね』
私の手をギュッとにぎりしめながら、
タクシーをつかまえる彼の横顔は、
やっぱり全然笑っていない。
『品川プリンスまで』
ツインのベッド。
彼がそのひとつに横たわりながら
『ねぇ、こっちおいでよ。腕まくらさせて』
彼の腕に寝ころがり、私はただ天井を見つめる。
『おれの心臓、超バクバクしてる。なんでだろう・・・』
私の顔をなで、鼻にキスし、身体をなでる。
服の上からでも彼の手がじっとり湿っているのがわかる。
『もしも、おれたちが結婚していると想像してみて。
それで今の駐在先のアメリカに一緒にいるとするでしょ。
休みの日、どうしたい?』
『う~ん。近くの公園でピクニックしたり、
家のお庭で友達呼んでBBQしたり、とか?』
『子どもが生まれても、一緒に寝てくれる?』
『シングルじゃなければ』
『(笑)。キングベット、買うよ』
彼の今の悩みがありありとわかる。
熱くて悲しい愛が痛いほど伝わってくる。
身体は熱い。
だけど心が泣いている。
『これ以上はダメだよ』
これ以上進んでしまったら戻れなくなる。
だって私たち、身体の相性が最高だって、
あなたも知っているでしょ?
彼の吐息がますます熱くなる中、
私はただただ目をつぶって横たわっている。
もし、私たちが結婚していたら、どうなっていただろう?
今頃アメリカで、広いお庭があるお家で、
家族みんなで笑って暮らせていただろうか?
あのときのように彼を愛して、
彼を幸せにしてあげられていただろうか?
人生の選択が正しかったかどうかなんて、
いつわかるんだろう。
正しい選択をするために、
私はこれからどうしていけばいいのだろう。
彼が、私のワンピースのホックをはずしている。
私は、熱くなった身体をかかえて、涙をこらえている。