実話をもとにした『ロマンス暴風域』。
風俗嬢との恋愛もあり得ると知った
――『ロマンス暴風域』を描く上で、風俗に対して以前と認識が変わったなど、何かご自身の中で変化はありましたか?
描いたことで何か新しい発見をした、というのは実はそんなにないかもしれません。主人公のサトミンには、モデルにさせてもらった友人がいます。その友人と話したことで新しい発見というのはいったん消化していて、マンガを描きながら見つけたことは特にないんですよね。
――そのご友人とは、どんなお話を?
サトミンのように風俗嬢に本気で恋をした友人に対して私が、「こうやって友達として喋っている私とあんたも男と女だけどさ、カネが介在することによってその体を商品として買うんですか? これまでだって彼女もいたし、普通に出会いは転がっているんじゃないの?」なんて話をしたんです。
彼はとても根気よく、丁寧に私の不躾な疑問や異論にも答え続けてくれて。その話を聞いて初めて、風俗店でも恋愛めいたことが起こり得るんだと知りました。
――作品を読んでいて、サトミンの相手である風俗嬢のせりかさん視点での描写がほとんどなく、得体の知れない不気味な感じがしました。そのことがより一層、「サトミンが風俗嬢にハマってしまった滑稽さ」を強調しているようでもあり……。これは敢えてそのようにしたのでしょうか?
それはおっしゃる通り、わざとです。作中にせりかさんのモノローグは一切ないんですよね。なるべくせりかさんという人が何を考えているのかを掴めないように、不気味な女に見えるように心掛けました。
せりかさんは基本的に、サトミンに対する欲求を何も持っていないんです。振り向いてほしいでもなければ、何かをしてほしいわけでもない。ただミステリアスな女でいたかったり、自分のなりたい別人格になりたかったり、ということしか考えていません。だからサトミンにとっては身を焦がすくらい魅力的に見える。けれど、女性読者から見ると服がちょいダサかったり、小手先のテクニックを使っていたりとやや稚拙でキナ臭い女だと感じる、というバランスを意識しました。
もうひとつ、せりかさんが謎めいて見えるのは、私が風俗嬢の実態のようなことを何も描かなかったからだと思います。
――確かにそうですね。なぜなのでしょうか?
編集さんと「風俗嬢に取材しますか?」という話もしたんです。だけど、取材をしたところで、私には絶対にわかるわけがないと思ったので、しませんでした。
私が取材して、「女同士だから本当のことを言って下さいよ」と聞いたところで、それは一部でしかありません。風俗で働いてお金をもらっている方々の、一番芯のところの生半可ではない切迫した部分というのはデリケートすぎて、私にはわからない。わかるわけないです。こうやって部屋でマンガ描いているだけでお金をいただいている私が聞きに行ったところで「お前には絶対わからない」と思われるに違いないから、これについては描けないですし、今後も描く気がないです。