いい女ぶることで得たもの

舘そらみ 恋愛黒歴史 ビバリーヒルズ青春白書 いい女 『ビバリーヒルズ青春白書』

 でも、何も叶わなかった、ではないのだ。
1つだけ、叶ってしまったのだ、否、1つだけ、叶えてしまった。
ビバリーヒルズに憧れ、ブレンダに感化され、1つだけ、叶えてしまった。

 それは、“いい女ぶること”。

 あまりにもビバリーヒルズを見て妄想を張り巡らせていた私は、ちょっと感覚が麻痺していたんだろう(それを思春期と呼ぶのかしら)、彼女たちを、真似し始めてしまった。
真似し始めたという表現すら弱いな。同じことをし始めちゃった。
高校進学と同時に、いっぱしの女になった。

 まず、私服を派手にしてしまった。だって、ビバリーヒルズの洋服は大胆なんだ。
私も、たっかいヒール履いて、ミニスカート履いて、ものすごいタイトなトップスを着だした。ヘソさえ出ていた夜もある。
胸元パッカーン開けて、紫のブラジャーチラ見せてた。
安っぽいのに色だけ鮮やかなそのブラジャーを見て、母親は「娼婦か」と形容した。娼婦ブラジャーを、自信満々にヘビロテした。

 そして、猛烈に男に対して愛想がよくなった。
………だって、だって、だって、アメリカのドラマだとそうじゃん!
ちょっとウインクしあったりして、ちょっと軽口叩きあったりして、もう次の瞬間には家のチャイムがピンポーンとなって、オシャレレストラン行って、もう夜景の見える丘の上で車の中でキスしてるじゃん! そういうのから恋が始まってるじゃん!
……それをさ、それをさ、やろうとしてただけなんだよね。

 だから、知らない人にも愛想が良い良い。キャッチの人とさえ、愛想よく喋る喋る。
今思い出したけど例えば、電車で前に立ってた男の人が落とした本を悠々と拾い上げて、悠々と本を広げて、本と一緒に落ちた栞をゆったりと挟んで、「ここで合ってるかな? もっと先まで読んでました?」ってすごい女ぶった笑顔で、相手の手を取って本を握らせてたからね。
…ねえ、なにコイツ。なにこの高校生。
もう、殺してください、あの時の私を。

 気付いていなかったんです、それが変だって。
だって、ブレンダもケリーもそれしてんじゃん!
それが、大人ってもんだと思っていたんです!
大人のマナーを、やってるだけのつもりでいたんです!