結婚に何を優先させるか?
結婚――それは、突然にして、違うステージへとあがることのできるチャンスでもあります。
裕福な男性と結婚すれば、本来、自分の力では、到底得ることのできない地位や名誉や金銭を得ることのできるのですから、「条件のイイ男と結婚したい」と願うのも当たり前のことです。
一方で互いに好いている相手とすることが『幸せな結婚』であるという風潮もあり、かといって、それはゴールではなく、その先には『生活』が待っておりさらにそれは『人生の墓場』だとか『愛の日没』だとかヒドい喩えで語られることもある……人生の中に、結婚ほど感情や打算や現実が複雑に絡み合ったものがあるでしょうか。
愛を貫くのが尊いだとか、愛なんて醒めるものなのだから賢くなったほうがいいだとかいくら世間が騒いでも、結局、結婚に何を優先させるかは、その人の価値観次第。
というわけで、大石圭氏の『愛されすぎた女』のヒロイン加奈が選んだのは『玉の輿』の道でした。
「できれば、ハンサムで、背が高くて、上品で優しい人がいいです」
照れて微笑みながら加奈が言い、樫村という女が加奈の顔を冷たく一瞥したあとで、目の前に広げた書類に、『容姿端麗、上品で優しい人』とボールペンで書き付けた。彼女の容姿と同じように、冷たくてギスギスとした感じの文字だった。(中略)
「ええっと……それから……」
加奈はさらに言葉を続けようとした。その言葉を遮るように女が口を挟んだ。
「まだほかに、相手に望むものがあるんですか?」
冷たい目で女が加奈を見つめた。それはまるで、『金持ちと結婚したがっているさもしい女のくせに、うるさいこと言うな』と言っているかのようでさえあった。
「ええ。あります。相手の収入は少なくとも3000万円はほしいです」
今度は微笑まず、強い口調で加奈は言った。
(『愛されすぎた女』P23L4-P24L12)
結婚相談所の職員が呆れるほどに、好条件な相手を求めた加奈でしたが、なんとすぐに希望の男性が見つかります。輸入中古車販売の会社を経営する35歳の岩崎。収入はなんと1億超えの超玉の輿。しかも容姿端麗とほぼパーフェクトなスペックの持ち主です。
唯一気になる点はというと、離婚歴が4回あるという点。が、加奈にとっては、そんなものは取るに足りぬこと。
そして高級ホテルのイタリアンダイニングでのゴージャスな初デートで婚約を交わし、わずかひと月後には、入籍、バリ島で結婚式をあげることとなるのです。
ファーストクラスの飛行機、最高級リゾートホテルでのウエディングと新婚旅行。誰もが羨む新しい門出のはずでした。が、やはり4回の離婚歴には理由があったのです。
それは、岩崎の過剰なまでの束縛と、支配的かつ、サディスティックなセックスにありました。
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