「今日が最後のエロ」人はタイムリミットがあると興奮すると知った日/中川淳一郎

僕が間男をしていた3歳年上の瞳さんが、突然ベトナムに引っ越すこととなった。大企業勤務の夫がハノイに転勤することになったのだ。「いわゆる駐在員妻になっちゃうのよ……。仕事もやめなくちゃいけないし、つまらないわ。ニノミヤさんとも会えなくなるしさ」と彼女は言った。

元々取引先の社員だった彼女だが、将来的には子供も産みたいと考えていたため、メーカー勤務の夫のベトナム駐在を機に専業主婦になり、子育てをその間にするようになれば良いと考えを切り替えたようだ。彼女は顔が広いため、送別会的な会はたくさんあった。僕もその中の一つに参加したが、彼女にとって日本最後の飲み会となる出国3日前はサシ飲みをし、その日は渋谷の高級ホテルで22時から朝の6時まで6回セックスを我々はしたのであった。

最後の方は我々は性器同士を擦れさせ過ぎて、若干ヒリヒリするほどだった。恐らく腰の上げ下げは1万回近くになったのではなかろうか。適宜ビールを飲んで喉を潤して、小便にも行きながら二人して貪り合うのだった。

彼女はこの日、仲の良い女友達と一緒に最後のお泊まり会を渋谷でやる、という嘘をついて出てきたようである。そのアリバイ作りのため、僕と会う前には一応女友達数名と一緒に居酒屋へ行き、写真を撮ったという。そして、彼女は僕が待つ部屋へやってきた、という算段である。部屋に入ってくるなり僕らは抱き合い、尻をもみ、彼女は固くなった僕のアソコをすぐに握り、すぐに全裸になり、徹底的にエロを続けたのである。最後、彼女はホテルの部屋を出る時泣いていた。

彼女がベトナムへ行ってから

彼女が日本を経った後、僕は放心状態となり、そこから先は妙に気が乗らず、仕事にも身が入らなかった。間男とはいえ、彼女のことは相当好きだったのだろう。そこから先、時々メールが来て近況報告をしたが、ベトナム生活で驚いたことを色々と長文で書いてきた。

「とにかくバイクの数が多過ぎて砂埃がすごいの!」
「フランスパンがおいしい!」
「通貨の『ドン』があまりにも安く『100万ドン』とか言われるとびっくりするけど、4000えんぐらいなの。計算が苦手だからこれ大変~」
「駐在員妻にはランキングがあって、外交官の妻が最上位、次いで銀行や商社、サービス業とメーカーが最下層。本当にイヤな世界」

瞳さんは新生活でそれなりに刺激があるようだが、僕は悶々として過ごす日々だった。不思議な気持ちなのだが、別の女性と付き合ったり間男になろうという気はこの頃はなかったのである。