「時々、現実を忘れたくなるの」地方のコンパニオンと東京で再会した話/中川淳一郎

とある業界団体の勉強会が愛媛県の松山市であり、僕はそのとき講師をした。終了後はホテルの大宴会場で懇親会になるのだが、仰天したのが、派手な服を身にまとった女性が多数会場に待機していたことである。

宴会が開始するとエラい人が次々と挨拶をし、長いスピーチもあり、ようやく乾杯の段階になった。すると、その女性陣が一斉にビール瓶を持って各テーブルにやってきてお酌をする。いわゆる「コンパニオン」という人々である。これは人生初体験なので驚いた。この日の宴会の参加者は100人ほどいたが、なんと、驚くことに全員が男だったのだ。僕を講師に招いてくれた人曰く、「これが業界の普通の風景です」と言っていた。

色々な人から「ニノミヤ先生、今日は貴重なお話ありがとうございました」とお酌をされつつ、コンパニオンの女性からも時々ビールを注いでもらった。それが仕事なのだろうが、なんとなく僕はこのシステムはイヤだな、と思った。男だけならば、男同士で酌をし合えばいいじゃないか、と。

宴会が終盤に入ると女性陣は一斉にいなくなった。そして、幹事は慌てて各所に電話をする。どうやら、彼女たちはこれから行くクラブ(キャバクラ)の従業員で、1次会のために出張をし、2次会は店で客の相手をするのだという。だから、店の経営者としては「ホテルの宴会+2次会利用」というものは歓迎すべきものだというのだ。女性にしても、良いギャラが貰えるという。

2次会で平子理沙似の美女に話しかけられた

かくして我々はタクシーに分乗し、2次会のクラブへ向かったのだが、ここではカラオケ・酒・女! というオッサンの悦楽モードの空間だった。僕はカラオケはしないし、別にこうした「接待を伴う飲食」はそれほど好きではない。だが、この様子がむしろ気になったのか、平子理沙似の美女が僕に積極的に喋りかけてくれた。

「なんか他の方と雰囲気違いますね」

「あ、私はあくまでも講師で、業界の皆さんとは今日が初対面です」

「あぁ、そうなんですね。東京からですか?」

「はい、そうです」

彼女の名前はマキさんといい、昼間は役所で働き、平日の夜は週に3回ほどこのクラブでバイトをしているのだという。この日は大忙しのため、早い段階から出勤を求められていた。真紅の口紅が似合い、まつ毛が長い人だった。

彼女は僕がどんな仕事をしているのかをしきりと聞いた。そして、僕も彼女がこの松山という街でどのような生活をしているのかを聞いた。

「まぁ、平凡に暮らしていますよ。一応安定した職業があり、夜は暇だからこうしてバイトもできますしね。東京ほど華やかではないけど、私はそこそこ満足しています。もう37歳ですが結婚もしていないので自由気ままに生きています」

当時、僕は31歳だったため、彼女は6歳年上となる。こんな話を続けていたのだが、さすがにアナウンスが入る。「マキさん、7番テーブルへヘルプお願いします!」。その後には別の女性も僕の脇に着いたが、マキさんとの会話の方がしっくりと来た。そして、一度の延長を経て、お開きの直前、マキさんが再び僕の隣にやってきた。

「ニノミヤさん、私ね、今度のお盆に東京へ行こうと思っているんだけど、お会いできる?」

僕は「もちろんです」と言い、行きたい場所を聞き、そこを案内することを約束した。そして迎えた当日、彼女はクラブにいたときの派手なドレスではなく、ジーンズと白いシャツというラフな格好だったが、美貌はそのままだった。