ケンカの理由

先頃「アルテイシアの熟女入門」という連載に「地獄が見える化したクソゲー社会で、JJが後輩たちのためにできること」というコラムを書いた。

“昨今「女の生きづらさ」を感じる案件が多すぎる。女が肥だめを覗きこんで「クソだー!!」と叫んでいるわけじゃなく、道を歩いているだけで頭上からクソが降ってくる。そんな『アトランチスの謎』のごとき、昭和のクソゲー的な世界を我々は生きている”

このコラムには多数の共感コメントが寄せられたので、同じように感じている女性は多いのだろう。

コラム内で触れたが、広告会社時代、通勤電車で痴漢に精液をかけられた。それで会社に遅れていったら、男の上司に「顔射されたのか(笑)?」とからかわれた。

オンラインサロン「アルテイシアの大人の女子校」の「セクハラ・モヤモヤの墓場スレ」には日々投稿が寄せられる。つい先日、メンバーの1人がこんな書き込みをしていた。

「今日、仕事帰りの電車でオッサンが触ろうとしてきたのをカバンで防御したら、降りる時に足を蹴られました」

それを読んで、怒りと悔しさと悲しみで涙が出た。
彼女は「みんなのコメントに救われました、なんとか眠れそうです」と書いていたが、それで加害された傷がなくなるわけじゃない。
それでもなんとか眠って、明日も朝から会社に行くのだ。通勤電車で痴漢のことを思い出すだろうと思うと、やりきれなかった。

その翌日、20代女子に誘われていたので、バーに飲みに行った。そこで彼女からこんな話を聞いた。

「上司に『若い女の子がいた方が盛り上がるから』と接待に連れていかれて、男だらけの宴会で取引先のおじさんに陰毛を投げつけられました。周りの人は『よっ、○○さんのお家芸!』『キミ縁起がいいね(笑)』と大笑いして、誰も守ってくれませんでした」

彼女は「アルさんに話したら気持ちが楽になりました」と最後は笑顔になって帰っていった、明日も朝から会社に行くから。
でも私はやりきれなくて、つい酒を飲んでしまった。普通に生きているだけで、陰毛を投げつけられる世界に絶望して。

そんなもん飲まずにいられない、でも、こういう時に深酒するのはよくない。

結局、酔って帰宅した私は「悔しい! なんで女だからってこんな目に遭わなきゃいけないの?!」と夫に怒りをぶつけて「男にはこんな苦しみわからないだろう!」とからんでしまった。

完全にぶつける相手を間違っている。男だからって怒りをぶつけるのは理不尽だし、八つ当たりだし、フェアじゃない。これじゃ自分が四方八方にウンコを投げる無差別ゴリラだ。

夫は痴漢もセクハラもしないどころか、性暴力から女性を守っているのに、「男」という性別で一括りにするべきじゃない。

そんなこと、頭では全部わかっているのだ。

わかっているけど、チン毛を投げるオッサン、それを見て笑っている男ども、そんな連中が平気でのさばっている社会が憎い。性暴力を軽く見て、加害者を擁護して被害者を叩く社会が憎い。
その憎しみの行き場がなくて、目の前の夫にぶつけてしまった。

夫は酔ってネチネチからむ私に「男の俺はキミの苦しみを完全に理解はできない。でも理解したいと思ってるのに、そんな言い方をされると俺もつらい」と至極まっとうな意見を返してきた。
それに対して「理解してよ!! じゃないともう離婚する!!」と泣き叫ぶ妻。

完全に妻の側がモラハラである。と、冷静な自分はわかっている。わかっているが「俺の中の『もう一人の俺』」が叫ぶのだ。