アホアホ丸の弟は

「葬儀に62万円、アパートの処分に68万円かかりました」とLINEしても、弟は無視をキメている。何度か電話もかけたが出なかった。

「普通は謝罪や感謝の一言ぐらいあるだろうが、このアホアホ丸が!」とぷんぷん丸の姉だったが「父が自殺してショックを受けてるんだろうな」と心配もしていた。

父の遺書には「すぐに相続放棄の手続きをしてください」と書いていた。
相続放棄をするためには、死後3ヶ月以内に故人の住民票がある市の家庭裁判所に書類を提出しなければならない。

弁護士の女友達に相談すると「手続きは自分でできるよ、このサイトに説明が載ってるから」とURLを送ってくれて、それを開いた瞬間、オボロロロロと嘔吐した。私は書類仕事が吐くほど苦手なのである。

だが、弁護士や司法書士に代行を頼むと金がかかる。サイトを見ながら「フッ…俺様に任せたら3万年たっても終わらねえな」と呟いて「よし、アホアホ丸にやらせよう」と決意した。私と違って、弟は書類仕事が得意なのだ。

「相続放棄の話をしたいから電話に出てくれ。父の借金が出てきた時にキミも困ることになるぞ」とLINEしたら、弟はようやく電話に出た。責めるようなことは一切言わず、二人分の手続きを頼みたい旨を伝えると「わかりました」とすんなり承諾した。

父の死についても話したかったが、相変わらず弟の反応は三点リーダーだった。

アル「調子はどう?」
弟「うん……まあ……」
アル「今も落ち込んでる?」
弟「うん……そうだね……」
アル「父の自殺がショックだったの?」
「……未来の自分の姿かなって」

オイオイ死亡フラグかよと思いながら「よかったら話を聞かせてほしい」と言うと「あまり話したくない」と塩対応。弟には悩みを話せる友達もいないようだし、ほっといたらこいつマジで死ぬんじゃないか??

うちは父が自殺して、母もアル中と拒食症で死んで、実は母の弟も自殺している。そんな死にがちな一族なので、弟のことが心配だった。
だが私が42歳のおばさんであるように、弟は42歳のおっさんだ。相手は大人なんだから、あれこれ干渉すべきじゃないのかもしれない。

それにしても、同じ日に同じ穴からオギャーと生まれた双子なのに、なんでこんなに違うんだろう…そう思いながら、電話を切った。

数週間後、家庭裁判所の担当者から電話がかかってきた。
「弟さんと連絡がとれなくなりました」