「ほなおまえが習えや!」
前回のコラムに対して、担当アサシン嬢からメールが届いた。
「59番さんのフラットな視点はどんな環境で培われたのでしょう?息子を産んだ友人たちが『この子をジェンダーバイアスのない男性に育てるにはどうしたらいいんだろう』と真剣に悩んでいるので、ぜひ秘訣を聞きたいです!」
夫を見ていると「培われた」というより「染まってない」と感じる。
オギャーと生まれたばかりの赤ちゃんは真っ白だ。そこから「男の子なんだから」「女の子なんだから」とジェンダーを刷り込まれていくのだろう。
青や緑の服を好んで着ていた女児が、保育園に通い始めると「とにかくピンク!ピンクがいい!」とピンク一色に染まる、という話を聞いたことがある。
保育園で周りの女の子たちがピンクを着ているから「女の子はピンクが好き」と影響を受けるのだろう。日本は特に「周りと同じが一番、そうじゃないと浮く」という同調圧力の強い社会なので、その傾向が強いんじゃないか。
義母の証言によると、幼稚園時代の夫は「誰とも会話せず、ひたすら虫を探している子ども」だったらしい。あまりにも言葉を発さないので、幼稚園の先生に心配されたそうだ。
いわゆるぼっちのコミュ障だったわけだが、本人は人間よりも虫が好きで「一番の思い出は遠足で大きなカマキリを捕まえたことだ」と語る。
また、動物園でお絵かきをした時は、周りの子どもたちはゾウやキリンを描いているのに、夫だけ熱心にワニを描いていたらしい。当時から、我が道を行く園児だったようだ。
それでいうと私も幼稚園の時は超人見知りで、いつも教室で1人で絵本を読んでいた。
外で友達と遊ばないし、運動神経も鈍くてスキップができなかったので、「どこか異常があるのでは?」と病院に連れて行かれたこともある。
当時は主張できなかったが、私は1人で絵本を読みたかったのだ。ちなみに今はスキップできるが、スキップができなくて困る場面は人生に一度もなかった。
そして当時は言語化できなかったが「大人に品質管理されて、規格外扱いされて窮屈だ」とぼんやりと感じていた。
夫も「子どもの頃は最悪だった、型にはめられるのがイヤでたまらなかった」と語る。
夫も幼稚園まではおとなしい子どもだったらしい。義母いわく、小学校にあがってからは「親の言うことを聞いたことが一度もない」という。
小学1年の時、義母がピアノを習わせようとして「あんたのためやで!ピアノ弾けた方がええやないの!」と言ったら「ほなおまえが習えや!」と返されたらしい。
夫に「本当に一度も言うことを聞かなかったの?」と聞くと「聞かなかった。なぜなら、あのババアは間違ってるからだ」とのこと。
義母に当時のことを聞くと「私も後悔してるのよ…叩いてでも習わせればよかった」と返ってきたので、たしかにババアの方が間違っている。