田中に話を聞くと…

かくしてデニーズで僕と田中とヒロコは21時頃から3者会談を行った。田中は泣きながら僕が川俣を何度も寝取ったと言う。その手口は以下の通りである。

川俣は女子大の寮に住んでおり、寮生共通の固定電話で個々の寮生に繋ぐ形に電話に出る。携帯電話が普及する前の話である。あるとき、「川俣さんお願いします」と言われて川俣は電話を繋がれた。すると、電話相手の男は「オレオレ!」と言う。

川俣は「誰ですか?」と聞く。男は「オレだよ、オレ!」としか言わない。オレオレ詐欺か! そこで「ニノミヤさんですか?」と川俣は言う。男は「そうそう、オレ、ニノミヤ! 元気? 今から会わない!」と言う。

川俣は男から指定された公園の暗闇に行くと後ろから目隠しをされ、バックで挿入されたのだという。これがこの1年間で5回もあったというのだ。毎度男は「ニノミヤ」を名乗ったというのだ。

これに対しては僕も「そんなこと一度もしてねーよ!」と言うも、田中は「川俣はニノミヤさんから毎度呼び出しをくらいました」と言う。恐らく、川俣がバイトをしている店等でネームプレートの名前を見たのとその寮に住んでいることを知っている男による行為だろう。

これではラチがあかないので、田中に「おい、川俣さんをこの場に呼べ」と伝えた。ほどなく川俣はやってきた。僕は「川俣さん。どうしてこんな嘘ついてるんですか。その電話の男とやらはこんな声でしたか? そしてオレみたいに筋肉質の体でしたか? そいつの体とオレの体を比較してください!」と伝えた。

幸い、当時はベンチプレスにハマっていたため、かなり胸板は厚く腕は太かった。特徴的な体だったので、川俣に触ってもらうしかない。すると川俣はこう言った。

「あっ……、声も違いますし、体も違います……。ニノミヤさんじゃないと思います」

「じゃあなんでオレだと言うんですか」

「だって『ニノミヤだよ』と言ったんで。そして、毎回会うと後ろから目隠しされて、終わった後は目隠しを30秒外すなよ、と言われたので姿を見たことがなかったので……」

僕は「オレじゃないということは、田中に言えますか?」とド詰めした。すると川俣は「はい、ニノミヤさんではありません」と言う。

こうなると、こちらとしては「おい、田中。川俣さんの勘違いだ。オレはお前らみたいな馬鹿がいるクソサークルにはいたくないので今日をもって辞めるわ。卒業近いけどな」と宣言。そして、この場に立ち合ってくれたヒロコに「おい、胸糞悪いから2人で飲もうぜ!」と2人分の代金だけを置いてその場を去った。

この日はヒロコと朝まで愚痴りながら「白木屋」で飲み続けた。

「ごめんな、こんなバカ騒動に突き合わせてしまって」

「いいよ。全然気にしないで! 私はニノミヤ君がそんなことする人だとは思ってなかったから。最初から分かってたから」

バカ騒動のあとに

かくしてこの騒動は僕がサークルを辞めるということで片が付いたが、同期達は「おい、あんなバカ2人のためにお前が辞める必要はないよ」と慰留してくれたが「オレはあいつらと違って別の場所もあるから辞めるわ。ただ、お前らとはこれからも仲良くしたい」と伝え、彼らとは公式のサークルの行事とは別に会う日々が始まった。

さらに、この「公園に呼ばれて目隠しでバックでヤられた」でさえ、完全な虚言だったことが明らかになった。そんな異常なことを5回もやるわけがない。1回だけであればさておき、「5回あった」と言うことにより、僕のことを貶めたのである。とにかく川俣としては、何があろうとも田中の気を引きたかったため、とんでもない虚言で周囲を巻き込み結果的には「あいつはヤバいヤツだ……」という評価を得るに至った。

後に聞いたところによると、川俣はブサイクなくせに田中がデート中、別の女性をチラチラと見て「可愛い人だなぁ」などと言う様が続き、腹が立ちついつい「私だってモテるんだから!」とキレてしまったのだという。そして相手を聞かれて「ニノミヤさん」と言ったのだという。

僕にとってはとんだとばっちりだが、このバカ2人と縁が切れて本当に良かった。さて、これまで当エロ連載を読んでくれている読者の皆様は僕にあの日に寄り添ってくれたヒロコと僕がエロをしたと思うかもしれないが、それはない。

断じてヤッてない。

Text/中川淳一郎