二村ヒトシさんの回答

二村ヒトシさんの回答

恋の切なさと楽しさを感じさせてくれるお相手の条件は、二つです。
「クソつまらない日常から連れ出してくれて、私をなんらかの意味でちがう私にしてくれる、なんらかの意味で別世界を見させてくれる」「こっちを好きなのか(セックスしたがってるのか)どうかよくわからない」。非日常性と、ちょっとした疑わしさ(不安)。この二つをかねそなえた相手に、恋の気持ちは燃えるのです。
いつもセックスばかりしたがる、あなたとセックスしたいことが明白すぎる相手は萎えるでしょ? これが恋じゃなくて愛や結婚だったらこの逆で、日常性と安心(うらおもてのないまともでまじめな優しさと、セックスレスにならない程度の性欲)が必要です。

同じ職場のいつメンに非日常性を求めるのは難しいですよね。いつメンの普段見せてくれることがなかった新鮮な姿をたまたま発見しちゃってドキッ、というのはありえますが。
また、婚活で会えるのが「結婚したがってる人」だけなように、基本的にはアプリで会える相手は「セックスか恋愛をしたがってる人」です。がっついてるとまでは言いませんが、結局は「やらせてくれる相手」か「彼女になってくれそうな相手」を最初から探してる人なわけです。それだと、よっぽどの相手じゃないと、こっちからは恋の感情は湧かないでしょう。

切ない恋をするためには、職場でもマッチングアプリでも婚活でもナンパされるのでもない場所で出会わなければならない。そのために、そういう場じゃないところでの偶然の出会いの機会を増やすというのが一つの方法です。
たとえば読書会みたいな、出会いを目的としてるわけじゃないけどお互いの人柄がわかるような趣味のサークル(10年くらい前はmixiのコミュニティというのがそういう場で、そこから始まる恋がけっこうありました)に積極的に参加するとか。趣味もセンスも話も合う素敵な人なんだけどこっちに気があるのかどうなのかよくわからない、そんな相手が見つかればしめたものです。

相談者さんは、そろそろ安定や安心や結婚が視野に入ってくるお年頃で、だからこそ「また(まだ)昔みたいに恋がしたい!」と思っておられるのかもしれません。
僕は相談の回答者としては不道徳な人間なので、恋する相手と愛情生活を共にする相手は最初から別々に作るつもりで考えていたほうが、かえってどっちとも出会えるんじゃないのかなとも思ってしまいます。先に「恋はできないけど愛せる彼氏」を作っちゃうのです。

わかりすぎてしまう日常的な彼氏には歯応えがない! と感じるかもですが、安定するお相手がすでにいるけれど、心に隙があるような女性の前に悪い男は意外と現れるものです(もし悪い男がお好きならばという話ですが)。
そういう男はどうせあなただけのものには絶対ならないので、切ない思いだけを味あわせてもらって、つまり恋だけをさせてもらって実際にはセックスしないでおく、心の浮気だけにしておくというのも最高に燃えるし切なくて楽しいですよ。
安定させてくれる相手も別にいるなら、楽しくなくなっちゃうほどには切なくなりすぎない余裕があるわけだし。

二村ヒトシ
アダルトビデオ監督。1964年六本木生まれ。慶應義塾幼稚舎卒で慶應大学文学部中退。ソフトオンデマンド若手監督エロ指導顧問。著書に『すべてはモテるためである』『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』『あなたの恋がでてくる映画』、共著に『欲望会議』『日本人はもうセックスしなくなるのかもしれない』『オトコのカラダはキモチいい』ほか。
Twitter:@nimurahitoshi