150万年前に恋愛感情のない一夫一婦制が始まる

出会いのカタチ 最古の人類 恋愛事情

――アウストラロピテクスって、まだまだヒトよりも動物に近かったんですね。では、恋愛感情とはいつ頃から生まれたのでしょうか?

河合 おそらく20万年前に登場した、現代人に最も近いホモ・サピエンスからだと思います。

――結構最近になってからなんですね。といっても、20万年も前から恋愛して夫婦になって、と繰り返されてきているんですよね。

河合 ちなみに、男女がペアになって夫婦として家庭を築くようになったのはそれよりももう少し前で、150万年前のホモ・エレクトスの時代からとされています。このときに恋愛感情があったかは不明ですが、僕はなかったのではないかと思います。

――恋愛感情がないのに、夫婦のような形を取っていたのでしょうか?

河合 そうです。そのほうが子育てがしやすいからです。それ以前はオスは子育てに一切関与していませんでした。それでもメスだけで子育てはできていた。なぜなら、類人猿やニホンザルには毛があり、生まれた子は自分で母親の毛にぶら下がっていたから。母親が赤ん坊を両手で抱く必要がなかったわけです。けれど、ホモ・エレクトスくらいまでくると進化の過程で毛がなくなっているため、母親が両手で赤ん坊を抱いて移動しなければなりません。

――母親一人で両手で赤ん坊を抱きながら、食べ物を採集しなければならないということですよね。大変だ。

河合 子育てがしにくいと、子どもの生存確率も下がってしまいます。そういった理由から、男性が子育てに関与するようになり、徐々に一夫一妻制の形になっていったと考えられます。また、男性にとっても、乱婚だった時代と違って、一夫一婦制なら間違いなく自分の子と確信できます。よって、一緒に子育てすることに異論はなく、そのことにより自分の遺伝子がいっそう残りやすくなるという利点もあります。

――合理的な理由から夫婦の形を取っていたんですね。

河合 そうです。ホモ・エレクトスに限らず、生物は基本的に合理的です。非合理的な存在だったら自然淘汰の中で生きていけないですからね。絶滅しないように、その環境に合った合理的な仕組みで生きているんです。

ネックレスをプレゼントするホモ・サピエンスの恋愛事情

――その後、ホモ・サピエンスの時代になると恋愛感情が絡むようになるんですよね。そうなった理由って何かあるのでしょうか?

河合 ホモ・エレクトスの時代から、石器を作り始めたのが関係しているのではないかと推測できます。石器によって、動物の肉などの栄養価の高いものを食べられるようになったわけです。そのおかげで、脳が大きく発達していきました。ホモ・エレクトスの時代と、それ以前とを比べると、脳の大きさが明らかに異なるんですよ。

――脳が大きくなることで、脳の中に恋愛感情をつかさどる部分が作られたということですか?

河合 そういうことです。ほかにも、ホモ・サピエンスが残した壁画やオーナメントからも、恋愛をしていたことが類推できるんです。オーナメントの中には、ネックレスや腕輪のようなものもありました。ですから、男性が女性にネックレスをプレゼントしたこともあったはずです。

――ホモ・サピエンスの男性が、手作りのネックレスを女性にプレゼントしていたってことですよね。ちょっとグッときますね。

河合 こういうのは、現代の恋愛感情に近いものと言えるでしょう。

――振られることもあったのでしょうか?

河合 あったと思いますよ。振られたから、もっときれいなネックレスを作ろう、とか思ったはずです。

――(いい話だ……)